宇宙混沌
Eyecatch

第2章:盗撮 [3/4]

「兄さまも物好きだねえ」
 宗三が湯船の湯をぴちゃぴちゃと手で撥ねさせながら言った。
「さて、何の事でしょう?」
「惚けちゃって。素直に脱いで差し上げれば良いじゃないか」
 このところ審神者が江雪の胸板を拝もうと躍起になっているのは左文字兄弟にも筒抜けだ。あの人間は恥じらいというものに欠けている。
「……私が守りたいのは、自分自身ではありませんからね」
 長い髪の毛に湯をかけていた兄の返答にくす、と宗三は笑う。
「ええ、知ってるよ。兄さまは意外と俗っぽい考えの持ち主だ」
「……ねえ、何の話?」
 宗三の隣に座っていた小夜が尋ねたが、宗三が口を開く前に浴場の扉が開く。獅子王と沖田組が入ってきた。
「小夜にはまだ早いですよ」
 頭を泡立てながら江雪の方が返事をする。宗三は三人の動きがぎこちない事に不信感を抱きつつも、続いて入ってきた鯰尾の声に驚いて振り向く。
「さあ、水球大会の始まりだあ!」
 どこぞの驚きじじいの真似をしながら、宗三の顔にボールを投げつけてくる。
「さあさあ皆さんも馬糞を投げつける勢いで投げ合いましょう!」
 現世のスポーツには疎い刀剣達だが、流石に水球とやらが水辺でボールを投げつけ合うだけの競技だとは思わない。
「鯰尾……一体何を……」
 宗三は投げ付けられたボールを片手で受け止め、緩く鯰尾に投げ返したが、彼はひょい、と避けて浴場の奥へ。後ろに立っていた骨喰がキャッチすると、江雪の方に投げた。
「ボールは三つありますからね!」
 鯰尾はそう言って隠し持っていたもう二つを投げた。
 浴場の隅では獅子王達がタオルにカメラを隠して江雪を狙っている。
「鯰尾は相変わらずやる事派手だな……」
 鯰尾が提案したのは、左文字兄弟の気を自分達が引くから、その間に江雪を撮影するというシンプルな作戦。清光は馬鹿丁寧に髪の毛を梳かしながら二人に呟いた。
「楽しそうだから良いんじゃない?」
 どうでも良さそうに、安定はわしゃわしゃと絡まりやすい髪を洗っている。ブラッシングしてからじゃないと余計絡まるよ、と清光に言われたが、時既に遅し。
「それより、この角度からじゃ背中からしか撮れないんだけど」
 互いに反対の壁を向いているのだから致し方ない。背後では江雪が元薙刀兄弟の集中攻撃を受けており、小夜がちょっと楽しそうに兄に投げ付けられるボールを拾って投げ返している。宗三は体が温まったからかいつの間にか戦線離脱して風呂から上がっていた。
「せめて、髪の毛を流させてからにしていただけませんか」
 これまで避ける一方だった江雪が、初めてボールを受け止めた。シャンプー途中だった江雪の目に、伝ってきた泡が入りそうになっている。流石に鯰尾も手元にあったボールをその手に留めた。骨喰も転がってきたもう一つを足で止める。
 江雪はたっぷりと湯と時間を使って髪を洗いだ。レバーを上げて湯を止めたかと思うと、足元に転がしていたボールを徐ろに手に取る。
 その後の一瞬の動きは誰にもはっきりとは見えなかった。ただ、水音だけが谺していた浴場に、無機質な高い音が響く。
「いっ!?」
 獅子王は、シャンプー台に置いていたカメラが床に転がったのを見て振り向く。江雪が左脇腹の辺りから彼の右手を伸ばして、同じく獅子王を見ていた。
 鯰尾と骨喰も凍り付いている。清光と安定はそっと獅子王から距離を取った。
(なんつーコントロール……)
 とか感心している場合ではない。江雪は髪の毛も絞らず、ボタボタと湯を体から落としながら獅子王に近付いた。
 獅子王もやっと身の危険を察知し、解けたタオルとカメラを拾って逃げようとしたが、江雪の左腕が彼を浴場の壁に拘束する。
(これはっ……!)
(壁ドン……!)
 元薙刀兄弟は文字通り水も滴る良い男な江雪による、ぱっと見は少女の様な容姿の獅子王への壁ドンに何故かときめいてしまう。沖田組は小夜に見せない様に後ろを向かせた。
「それを渡していただきましょうか」
 江雪の口調が心なしか巻いている。凍て付くような碧い瞳に見下ろされては、獅子王は頷くしかなかった。

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