宇宙混沌
Eyecatch

第9話:夏だ! 主命だ!! 水浴びだ!!! [4/7]

 午後。
「うお、なんかそれっぽくなってきた!」
 掃除を終えた池に水を張り直す。既に水着姿の獅子王は今にも飛び込みたそうにしていた。
「水着の到着ー」
 そこに万屋まで通販で頼んだ品を取りに行っていた審神者が戻って来る。
「長谷部!」
 海パンを投げ付けられた長谷部が、着替える為に作業を離脱する。粟田口の短刀達が、入れ替わりにぞろぞろと出て来た。
「こらこら、まだ入ってはいけませんよ」
 そう言いながら後ろを付いて来る一期の格好に獅子王が吹き出す。
「相変わらず派手だな!」
「青髪に赤と黄色のアロハ……信号機かよ」
 審神者はちょっと退いたが、一期本人は気にしてなさそうである。
 水着を各部屋に配ると、審神者は自分の部屋に戻る。持ってきた筈の水着を探し始めた。

「おや、主は?」
 江雪は下は水着に、上はこの前買ってもらったシャツを着た状態で庭に姿を現した。小夜はその手を彼に引かれていたが、テンションの上がった粟田口短刀達に連れて行かれる。
「ん? そのまま着替えに行ったぞ?」
 獅子王の返答に激しいメンタルダメージを食らった刀剣が二振。言わずもがな、良からぬ期待をした江雪と清光である。
「主の水着姿……」
「鼻血出てるよ加州。水入るのやめた方が良いんじゃない?」
 安定はゴワゴワの髪の毛を結い直しながら溜息を吐いた。
(マジでこいつあの審神者の何処が良いの?)
 安定も別に嫌いではないが、恋慕の感情と主従関係として慕う感情の区別くらいはつく。
(まあ、加州は初期刀で主が鍛刀した訳じゃないから、また違うのかもしれないけど……)
「……あの、やはり私は宗三の様子を見ていては……」
 主の水着姿なんて自分の理性が保てるかどうか怪しい。江雪は一期に尋ねてみたが、途中で言葉を飲み込んだ。
「良いですかー!? この池は深さが浅い所でも一メートルあります! 今剣ちゃん達みたいに一部の子には立ってもギリギリ顔が出るくらいの深さです! 皆溺れない様に……」
「骨喰、水球やろう!」
「この前のは水球じゃない。何度言えば解るんだ兄弟」
「水中で一番長く息止められてた奴が一番短かった奴に何か一つ命令する事!」
「カカカ、良かろう。これもまた修行」
「命令って何でも良いのか?」
「負ける気がせんのー」
「俺の格好いい水着姿を見るのがお前等だけなんて勿体ねえぜ」
「骨喰君からカメラ借りてきたよ兼さん! 記念に撮ってあげるね!」
(…………なるほど。ライフセーバー要員、理解しました……)
 伊達組他が来ていないので、現状安全を監督してくれそうなのが一期くらいのものだ。他の粟田口は監督される側だし喧しい刀達は盛り上がってるし新選組は色ボケとナルシストの相手で忙しそうだし。
「休日とは一体何だったんだろうか……」
 そこに、水着の上からジャージを羽織った長谷部が戻って来る。ライフセーバー要員その三か……。
「お、やってるやってる」
 一期の指示に従って皆が準備体操をし始めた所で、洋装の鶴丸がひょっこりと顔を出した。
「貴方も、入るのですか?」
「入りたかったんだが大倶利伽羅に止められてな。厠に行くフリしてこっそり逃げて来た」
「お前は来たばかりだし、泳ぐのは危険だろう」
 長谷部も大倶利伽羅に同意したが、鶴丸が悲しそうな顔をするので江雪は少し心が痛む。
「ま、溺れて死んでちゃ話にならねえ。諦めるよ……!?」
 鶴丸が言って振り返った所に、何かが飛んで来て彼の顔面に直撃した。江雪と長谷部は敵襲かと慌てて腰の辺りに手を伸ばすが、自らの本体はそれぞれ部屋に置いてきていた。
「ごめんごめん! 大丈夫か国永?」
 江雪達は審神者の声に振り返る。
「お前の身体は特注品で、眼球以外はアルビノだから入るんなら日焼け止め塗りな」
 先程投げたのは日焼け止めらしい。鶴丸は「おう」と返事をして鼻をさすりながら日焼け止めを拾った。
「でも水着がねーぞ」
「余りが出た。蜂須賀がやっぱり入らないらしいからこれ着なよ…………どうした?」
 審神者は鶴丸の隣で固まっている江雪達を見た。長谷部は構えを解いて姿勢を正す。
「何でもありません、主」
 普段は夏休みの小学生の様な格好をしている審神者が、白いフリルの付いたセパレートタイプの水着を着ている。意外と似合っているし思っていたより可愛いので長谷部もつい見詰めてしまっていたのである。
(江雪の理性は大丈夫か?)
 長谷部はちらりと隣を見る。江雪はいつものジト目のまま、審神者の(明らかに盛ってる)胸を凝視している。あ、あんまり大丈夫じゃなさそう。
「せめて上着を着てください……」
「ん」
 江雪がやっとそう言うと、審神者は手に持っていた白いパーカーを羽織る。しかしそのパーカー、ちょっとした日除け用らしく風も視線も通しまくりだ。
 鶴丸は江雪を面白そうに見ながら着替えに戻る。長谷部は泳ぎ始めた刀達を監督しに行った。審神者も水を浴びに池の淵へ。
 透けた腕を見ながら、江雪は審神者を追う。
 池の淵に沿って、ビニールシートが敷かれていた。足が汚れないようにとの長谷部の配慮である。それぞれサンダルと草履を脱いで水際へ。
「現世では、その格好が一般的なのですか?」
 江雪は池の水を掬う。それは指の間をするすると抜けて落ちていった。
「もっと露出激しいのもあるよ。スタイル良ければ着れるけど……」
「いえ、それでも十分ですが……」
 審神者が来た事に気付いた清光が池の向こう側で興奮しているのが見える。江雪はとりあえず睨んで牽制しておいた。清光の隣で安定や土方組が殺気を感じ取って青い顔をしている。
 審神者はバシャバシャと頭や体に水をかけてから江雪を振り返る。
「ていうか江雪が太腿出してるのも珍しいな?」
 言ってその手が鍛えられた腿に触れた。他人にそんな所を触られるのは初めてだったので、驚いた江雪は立ち上がりかける。
 が、しかし、此処は池の淵。濡れたビニールシートとその下の池の縁石に足を取られた江雪は、バランスを崩して頭から池に突っ込んだ。

闇背負ってるイケメンに目が無い。