第9話:夏だ! 主命だ!! 水浴びだ!!! [2/7]
夏だ! 主命だ!! 水浴びだ!!!
「あっついなーしかし」
審神者は今日の近侍の長谷部と執務室を目指していた。
本丸の各部屋にはエアコンがあるが、流石に廊下や縁側には設置出来ない。食事の間から執務室までのほんの数十歩でも、至る所から汗が吹き出てくる。
「執務室の空調を入れておいて正解でしたな」
江雪に続いて鶴丸まで熱中症に倒れたので、クールビズを強制されて薄着の長谷部が障子を開けた。審神者はクーラーの効いた部屋に吸い込まれる様に中へ。
「あーあ、プールにでも行きた……」
そこでハッと気付く。プールと言えば水着。水着と言えば胸筋が見放題。
「……長谷部、今日の遠征と出陣の予定は?」
「出陣は粟田口部隊だけですが。遠征は、獅子王の部隊が帰って来ればそれで終わりです」
「そうか。よし、今日はこの本丸は休日にしよう。出陣は延期」
「主の思うままに。しかし、何をなさるおつもりで?」
「プールだプール。長谷部、他の手の空いてる奴手伝わせて良いから、庭の池の水抜いて掃除しといて」
「主命とあらば」
長谷部も例に漏れず、審神者が変人だという事は重々承知だ。多少不安で尋ねてみる。
「主、ところでプールとは……」
「水浴びする施設だよ。此処、虫とか居ないし、池はああ見えて下はコンクリで固めた人工池だから、多分いけるいける」
当初は亀か何かを飼おうと思っていたが、結局実行に移さぬまま夏が来たのだった。しかし、プールとして活用出来るならこれはこれで結果オーライ。
「しかし主、水浴びなど……外で裸になれと仰いますか」
それが男体フェチの審神者の思惑だろうと呆れつつ一応は噛み付いておく。
「安心しなって。水着っていう濡れてもそんなに重くならないし透けない服があるから」
審神者はタブレットで早速万屋の通販サイトを広げている。まあ、過度に淫らにならなければ良いか、自分も涼みたいのはやまやまだし、と長谷部は折れる。
そこに獅子王が軽やかな足音を立てながら駆け込んで来た。
「戻ったぜ! お、何見てんだ?」
「獅子王、廊下は走るなと何度言えば」
「あー悪い悪い」
長谷部の言葉は右から左に流してタブレットを覗き込む。
「水着? これ、男モンだぜ?」
「お前達の分だよ。皆のサイズは大体把握してるし」
この審神者……と獅子王と長谷部は顔を青くしたが、男性用水着は女性用と違い、そんなにサイズバリエーションが無いので審神者が購入できるのも当たり前と言えば当たり前だ。
「つか、俺水着持ってるぜ? 風呂掃除の時に着てるやつ」
「ん? じゃあ他にも持ってる奴居るかな」
まだ部屋で涼んでいた長谷部を急かし、審神者は刀剣達の部屋へ。獅子王は長谷部に手を貸しに行った。
「水着ですか? ええ、この前全員の分を購入致しましたが……」
まずは粟田口。相変わらず弟達を収めたビデオを編集していた一期が答えた。やっぱり弟達の分は買っていたか。
「水浴び? 水浴び?」
鯰尾が尻尾を振るようにアホ毛を揺らしながら尋ねる。
「おう、解禁だ。暇なら長谷部を手伝ってやれ」
続いて伊達組、新選組達の部屋へ向かう。途中で廊下を掃除していた歌仙と蜂須賀に会った。
「水浴び? 僕は遠慮しとくよ。あんまり雅な感じがしないからね」
主に審神者の所為だが。
「蜂須賀は?」
「僕を水浴び如きで喜ぶ短刀と一緒にしないでくれ」
とか言いながら審神者が去る背中をチラチラ見ているので、一応奴の分も買っておいてやろう。天邪鬼め。
「水浴びしようと思うんだけどー」
光忠の部屋には大倶利伽羅と鶴丸が邪魔をしていた。
「水着? 僕達も丁度新作を見てた所なんだ。僕達の分は勝手に買うから、主は気を遣わなくて良いよ」
本当は入る気が無くて審神者の強要から逃れる為なのか、単なるお洒落さんなのかは判らないが、審神者は頷くと新選組の部屋が並ぶ棟へ。
「水浴び? やるやる」
「可愛い水着が良いなー」
「俺は格好いいのにしてくれよ?」
「僕は兼さんとお揃いで!」
この四人はノリが良くて素直だから審神者もほっこり笑顔になる。
「あとは……国広と三条と左文字とにっかりか」
あ、陸奥守と愛染を忘れてた、と審神者は引き返そうとしたが、あいつらは差し出せば自ら手を伸ばして受け取るタイプだなと思い直し、それぞれのサイズの水着をポチ。
途中で食事の後片付けを終えた山姥切国広と同田貫が審神者を追い抜く。
「あ、良い所に。お前達、水着どれが良い?」
「水着?」
山姥切が不機嫌そうに、頭から被った布越しに審神者を見る。
「俺はもう脱がないぞ」
彼が本丸に来たばかりの頃、当時は審神者の好みの体型の刀剣男士が少なく、度々審神者の犠牲となっていた山姥切が警戒するのも無理は無い。元々、ジロジロ見られるのが苦手だと言うのに。
「さいですか……」
審神者も流石に彼には無理強いをしすぎたと思っているので大人しく退き下がる。折角綺麗な顔と体なのに勿体無い、と思ったが、「勿体無い」は審神者の嫌いな言葉なので口には出さないでおく。
「褌で良いだろ」
同田貫は水浴びする意欲はある様だ。
「うん、でも流石に私も下を眺めて愉しむ程の変態じゃないから、万一の為に褌はやめてくれ?」
決してポロリなんて期待していない。山姥切に山伏にも伝えておいてくれと頼み、審神者は同田貫と山伏の分をポチ。
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