宇宙混沌
Eyecatch

第3章:武道 [3/6]

 今度は薬研が宗三の相手をしていた。普段は自らの短刀しか持たない薬研が長い竹刀を振るっているのは新鮮な光景だ。
 何でも、宗三が一勝するまで続けるらしいが、既に薬研が二連勝している上に宗三は疲れが出てきてフラフラである。あともう二戦くらいしたら止めてやろう。
 審神者は持って来ていた魔法瓶から冷たい茶を二つのコップに注いだ。一つは壁際で休憩している江雪に、もう一つは自分に。
「ありがとうございます」
 無言で頷き、江雪の隣に腰を下ろす。少し、口を濡らしただけで水面を見つめていた江雪が、尋ねる。
「貴方は、何故刀を振るうのですか」
 江雪は、現世が大きな戦乱の無い世界だと知っている。例え戦乱の時代だったとしても、人間が刀を振るって戦争を行う時代では無い事も。
「……逆に訊こう。何故そんな事を問う」
 審神者はコップの半分程を飲み干して返した。
「……刀は、武器です。それも、時代遅れの。どうして貴方のような女性が惹かれ、学ばねばならないのですか? 理解できません」
「己だけでなくこの世に存在する刀剣全てを否定するか」
 審神者は半ば憐れみを含んだ目で江雪を見た。江雪の瞳はというと、てっきり軽蔑した様な冷たい視線を寄越すのかと思いきや、意外にもその眼差しは慈愛に満ちている。
(なんだ、私に戦ってほしくないだけか……)
「勘違いしている様だから言っとくけど、私は元々戦う為に武道をやってた訳じゃない。まあ、結果的に戦いの役には立ってるけどさ」
 薬研がまた勝った。もう一戦やっている間に話が終われば良いが。
「武道は肉体を鍛え戦いの腕を磨くだけじゃない。精神力や洞察力も鍛えられる。私は私のやりたい事をやる為に、心を研ぎ澄ましているのさ」
「でも貴方は今、そのやりたい事をやっていませんね」
 審神者は弾かれた様に立ち上がった。驚いた宗三がよそ見をし、また一本取られる。審神者はその音に我に返った。
「薬研、もうそのくらいにしといてやれ。さて」
 コップに口を付けようとしていた江雪の襟ぐりを掴む。
「軽く女性差別発言があったな。仕置きだ、投げてやる。ついでに剥いでやる」
「柔道ですか? 貴方の体格では無理でしょう」
「良いから着替えろ」
「おいおい、どうしたんだよ大将らしくねえ」
 薬研が仲裁して審神者は諦めた。自らの居合刀を片付け、更衣室へ向かう。
「気分を害してしまった事は、謝罪します」
 江雪の声が背中を叩いたが、審神者は振り返らない。
「……僕達も引き上げよう、兄さま」
「なーに、よくある事だって」
 審神者を怒らせてしまった事をあからさまに後悔している江雪の背を、二人は叩いて慰めた。

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