第3章:武道 [2/6]
武道
「どこからでもご随意に」
防具と面を付けた背の高い男が、金属製の格子の下からそう言った。
「そちらこそ。どこからでも打ち込んできて下さい」
同じ格好をした、ほぼ同じ背格好の別の男が、彼と向かい合っている。
……そのまま何分が過ぎただろうか。
「おーい、早くしろよー」
見かねた薬研がそう声をかける隣で、審神者は腰に居合刀を結んでいた。
「しっかし大将、この格技室とやら、どの本丸にもあるのか?」
此処は板張りの離れの大きな一室。防具を外して胸元を広げ、暑そうに襟をバタバタさせている薬研が尋ねた。
「前に演練で他の本丸の奴等に聞いたが、手合せの時に毎回どっか傷めるから資材が足りなくて大変だって言ってたぞ?」
「ああ、そりゃ真剣使って手合せしてたらそうなるね」
審神者は集中して刀を振っていたが、型が終わった所で薬研の隣に移動して休憩する。
「これは私の趣味の為に造ったんだ。現世では、現代武道と古武術をやっていてな」
「へーえ。道理で詳しい訳だ」
全戦全勝を収める審神者の手腕は伊達ではないという事か。
「結果的に皆の手合せにも活用出来て、良い投資だった」
江雪と宗三が行っているのは、剣道である。ようやっと宗三が動いて、江雪に竹刀を繰り出した。江雪はそれを避け、反撃する。
「実戦とは少し動きなども変わってくるが、その分、刀の修理代が浮くしな」
「でもよぉ、流石にこんだけのモン作るとなっちゃ、相当かかってるだろ?」
格技室、と呼ばれている棟には今居る板張りの部屋以外にも、畳を敷いた部屋や、弓道場まで設置されている。一介の審神者の給料で賄える建設費ではないと思うのだが。
「どっかから横領でもしたのか?」
「人聞きの悪い。これは政府からの報奨金を充てたんだ」
「報奨金?」
その時、ひときわ大きな音が鳴った。江雪が宗三の胴を打ち、決着が着いたらしい。二人とも暑そうに面を脱ぎ、此方に近付いてくる。
「報奨金とはねえ……僕達は特別何かやった覚えはありませんが」
どうやら話を聞いていたらしい宗三を江雪が咎める。
「もっと集中してもらいたいものですね」
「だって、気になるじゃないか」
「本気ではない相手に勝っても、嬉しくありませんよ」
江雪はタオルで頭から流れ落ちてくる汗を拭っている。その顔を見詰めていた審神者と、江雪の目が合った。審神者は慌てて目を逸らして話を戻す。
「私の仕事に対する報奨だからな」
「それって俺達の功労とは違うのか?」
「違う違う。私はあの装置の設計に携わったんだよ」
審神者は立ち上がると、窓から見える別の建物を指さした。物置小屋の様に見えるそれの中には、本丸と現世、或は本丸と過去とを繋ぐ装置、所謂タイムマシン的なものが入っている。
「私の指導教官が研究の第一人者でね。あれのソースコードの一部は私が書いたんだぞ。バグ取りは殆ど私が……何三人揃って『信じられない』って顔してんのひど……」
「すみません……」
「いや、正直大将がそこまで凄い奴だったとは思ってなかった」
「寧ろ侍らせてください」
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Written by 星神智慧