宇宙混沌
Eyecatch

第7章:愛されキャラ [6/6]

「これが、現世ですか……」
 江雪は転送装置から出てまず、感嘆の声を漏らした。ハイテクな趣向を凝らした通路を、ビジネスマン風の人間があっちへこっちへ、忙しなく移動している。洋装を大倶利伽羅に借りている鶴丸はともかく、自前の着流し姿の江雪はよく目立っていた。
「此処は政府の官庁内だから洋装ばっかだけど、外にはファッションで和装してる人もそれなりに居るよ」
 そう言う審神者は白い直衣に紅色の袴を履き、頭には黒く薄い布で顔を覆う帽子を被っていた。
 官庁内ならともかく、外では審神者の知り合いに会う可能性がある。隣に立っているのが付喪神だと知らない一般人が、うっかり審神者の真名を呼ぼうものなら、政府がハンドルネームで審神者を管理している意味が無い。官庁の外を付喪神と共に出歩く際は、審神者と一目で解り、ぱっと見では個人を判別出来ない衣装で行く事を義務付けられていた。
「まあまずは服から買うか」
 光忠と大倶利伽羅が贔屓にしているアパレルショップで鶴丸の服を選ぶ。
「うん、洋装に挑戦するというのも、オツなもんだな」「俺に白以外を着せようってか? でも、意外な色で驚かせるというのもアリか……」「これはどうやって使うんだ大倶利伽羅。……ほーう、こりゃ驚きだねえ」
 鶴丸は楽しそうにしているし、伊達組に任せておけば良いか。しかし、この店は江雪が普段着にするにはちょっと派手すぎる。審神者は江雪を連れて別の店に行くと光忠に伝えた。
「暑くありませんか?」
「次の店までの辛抱だ」
 路面店が並ぶ通りを、審神者と江雪は暑さに溶けそうになりながら歩く。すれ違う一般人、特に女子が江雪の美貌や白く長い髪に驚いて二度見していた。
 結局、半分量販店の様な無難な服を売っている店へと辿り着く。
「江雪は何色が好きなんだ?」
 審神者はメンズコーナーでハンガーに掛かった服を次々と手に取っては戻し、江雪に合わせては戻し、を繰り返している。光忠みたいなセンスは残念ながら無い。自分だって普段はショートパンツにTシャツという小学生の様な格好をしているのだ。
[あか]……でしょうか……」
 審神者は一瞬意外そうに口を半開きのまま止めたが、手に持っていた服を戻すと言った。
「お前もなんだかんだで刀なんだな」
 無意識なのだろうが、血の色を連想するのか、赤が好きだと答える刀は少なくない。これまでに好きな色を尋ねてみた刀剣は多くないが、違う色を答えたのは「黒」と言った獅子王と炎に焼かれた粟田口くらいのものだ。
 江雪は複雑そうな表情を浮かべる。審神者が思っている通り、血を連想したのかもしれない。だが、江雪としては、紅は審神者の、コウの色だった。審神者の持ち物には、赤い物が多いのだ。
「その割には寒色系の服が多いな?」
「私の服は、宗三が選んでいますので」
「まあ、その髪の色じゃ赤はねえ」
 結局、寒色系やモノトーンの夏物を審神者が適当にチョイスして試着させる。
「似合う似合う」
 自分のセンスが心配だったが審神者は安心した。
「ありがとうございます。私も気に入りましたよ」
 江雪が微笑んだ。審神者は不意打ちを食らって赤面し、布で表情が良く見えない事も忘れて顔を逸らす。
(……どうせなら二人で来たかったな)
 この格好ではデートらしいデートにはどうやってもならない。店員にも審神者と付喪神、という対応はされるが、カップル扱いはしてもらえないのだ。
 会計を済ませると、三人と合流して今度は家具屋へ。
「家具はお店の車で官庁まで運んで貰うから、まあ、仕事してもらうのはそこからかな」
「何を買わないといけなかったっけ?」
 光忠が尋ねる。
「国永次第だが、部屋はもう見たのか?」
「ああ」
 今、あの部屋は畳張りの状態だ。布団はあるので、特段急いで買わねばならない物は無く、部屋をこれから洋風にしたいかどうかでかなり変わってくる。
「光忠の様な部屋も粋だが、俺は別にあのままでも構わんな」
 という事で和室に合う箪笥やら机やらを見て回り、適当に揃えた所で帰路へと着いた。
「よし、予算内に収まってるな!」
「礼を言おう主」
「ま、良好な労働環境を作るのも審神者の仕事の内だからね」
 手分けして荷物を転送装置まで運び、行先を指定して転送されるのを待つ。鶴丸は転送装置の仕組みについて審神者に尋ねていた。
「興味があるなら今度レクチャーしてやろう」
「詳しいのか?」
「私は開発者だ」
「こりゃ驚いた」
 元々似たような性格の二人は、馬が合うのか今日初めて会ったとは思えない程リズム良く言葉を交わしていた。その様子を、微笑ましく思いつつも、嫉妬している自分が居る事に江雪は気付いている。審神者だけが鶴丸の事を国永と呼ぶのも気になっていた。
 それに、鶴丸は審神者の好みにどストライクな体型だ。
(まさか私の身体から乗り換えようと思っているのでは……!?)
 非常に問題がありそうなモノローグだが、二人の関係は未だプラトニックであった事を強調しておこう。
(江雪君がさっきから百面相してる……)
(鶴丸対江雪か……興味は無いが……)
 大倶利伽羅よ、光忠と一緒になって面白がっている時点で矛盾しているぞそのモノローグ。
 江雪が睨む様な視線を浴びせている事に気付いたのか、鶴丸が首だけで江雪を振り向いた。
「向かいの部屋だったな。よろしく頼むぜ」
「……ええ。此方こそ」
(うわ……なんか火花散ってない?)
(まさか……鶴丸本気で主を……!?)
 二人はちょっと心配になってきたが、その心配は杞憂で終わる事となる。あんまり良くない方向で。

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