宇宙混沌
Eyecatch

第10話:研究室 [6/6]

 自分も人間として生を受けて彼女と出会っていたら、この様な経験を毎日の様にしていたのかもしれないと思うと、やはり江雪は刀としてこの世に意思を持ってしまった事を嘆いてしまうのだった。
「御馳走様」
 テーブルの向かいで夕食を食べ終わったコウが手を合わせる。とっくに食べ終わっていた江雪は「行きますか」と言って立ち上がった。
 レジでは店員が先導していた江雪の方に声をかける。財布を出しているのが女性の方だと判ると店員はそちらを向いた。
 そもそも付喪神の容姿は一般人にはあまり知られていないし、刀身本体をコウの部屋に置いて来たので、二人は単なるカップルだと思われている様だった。本来、一般人との会話は最小限に留めるべきだが、買い物中も店員がやたらと江雪に話しかけてきたし、現世でのデートというのはこういうものか、と江雪は新しい知識を吸収する。時々江雪の見目を褒められて、コウの方が嬉しそうにしていた。
 コウのマンションに戻り、入れ替わりでシャワーを浴びる。上がると、コウが家具を部屋の隅に寄せ、ベッドの隣に布団を敷いていた。
「どっちがどっちで寝るか、勝負ー」
 いきなり始まった戦闘に、江雪はひっ捕らえられ腕を背中で固められてしまう。
「そんな事しなくても、私が床で構いませんよ」
 とはいえ、寝る時間にはまだ早い。買い物と食事で話すネタも無くなってしまったし、江雪は本棚にあった本を借り、コウはネットサーフィンをして時間を潰した。二人きりで長く過ごすのも簡単じゃないな、と江雪は思ったが、その意志は変わる事は無かった。
「そろそろ寝るかー」
 コウがパソコンを切り、ベッドへと移動する。枕元のライトだけを残して明かりを消した。
「じゃあおやす………………おいおい、私は一応その辺りは信頼していたんだがな?」
 無言で抱き締めてきた江雪の肩を押して離れる。
(……上手くいきませんね)
 鶴丸が言っていた言葉が江雪の耳を打ったが、それよりも、神隠しが上手くいかなかった事に江雪は首を傾げる。
 そもそも分霊は審神者の霊力を頼りに存在している。神隠ししてその存在を現世から遠ざけるには、付喪神本体に匹敵するとまでは言わないまでも、審神者の霊力を上回るだけの霊力が必要なのだ。その為には自分から付喪神本体と同調し本体に還る時に連れて行くか、審神者の霊力を弱体化させるしかない。江雪は後者を選んだ。
「……私は貴方を愛しています」
 コウは率直な告白に顔を赤らめた。気持ちは知っていたとはいえ、面と向かって言われると照れるものである。
「ハッ!? 何を突然……」
「お名前をお呼びしても構いませんか」
 有無を言わさない口調で迫る。審神者の霊力を弱体化させる方法は色々あるが、真名を呼ぶか、身体を重ねて霊力の境界を曖昧にするのがこの状況では自然だろう。
 返答は得られない。江雪はベッドに座ったコウの脚を跨ぐとそのまま組み敷く形を取った。
 コウの目に、一番上のボタンが外されたシャツと江雪の鎖骨が飛び込んでくる。江雪はその視線に気が付いた。
「此方の方をお望みですか?」
 二つ目のボタンに、骨張った指をかけた。

闇背負ってるイケメンに目が無い。