研究室
翌日、審神者はメールを読んで焦った。
『明日の午後一時半に、研究室のメンバーのみ、談話室に集まってください。途中入室は避けてください』
という旨の英文メールが昨日届いていたのだ。池で水浴びをした後、片付けやらなんやらですっかり疲れてしまい、昨晩の内にメールチェックをしなかったのが悪いのだが。
「今何時!?」
言いながらパソコンの隅を見る。午前十時十五分。
「……どうかしたのか?」
近侍の和泉守が首を傾げる。
本丸から官庁までは転送装置で一瞬だから良いとして、官庁から大学までは電車を乗り継いで二時間弱かかる。午後一時半に着こうと思ったら遅くとも十一時半には此処を出なければ。
「悪い兼さん、今日ちょっと留守にするから、二軍の代わりに一軍で出陣して。本丸の業務は一期に任せる」
「急用か? いつ帰って来れる?」
慌ただしく他のメールをチェックする審神者に和泉守は尋ねる。審神者は先程のメールを開き直した。
『研究室のメンバーのみ』『途中入室は避けて』
「…………判らない」
「お供はどうする? 清光は一軍だぞ」
審神者は悩んだ。結んでいた口を、ようようと開く。
「要らない」
審神者は厨で冷凍庫の中を弄っていた。おやつ代わりに常備してあったシリアルとヨーグルトでかなり早めの昼食とする。
「こんな時間から間食ですか」
午前中の畑仕事を終えたらしい江雪が、水を求めて姿を現した。これから気温が上がる時間帯は休憩し、日の傾く頃に再開する算段だ。
「昼飯だ」
「出掛けられるのですか?」
「ちょっとな」
「……そうですか。お気を付けて」
言葉を濁す審神者に、江雪は水を飲むと立ち去ろうとする。急な話だし、前回の様に呼び出されたのだろう。
「……待って!」
審神者は急いでシリアルを掻き込み、立ち上がる。ガラス製の器に置かれたスプーンが音を立てた。
「一緒に来て」
「どうかされたのですか?」
江雪は審神者の元に戻り、その手を伸ばす。小夜をあやす時の様に、審神者の髪を撫でた。
「何に…………怯えてらっしゃるのです?」
「……解らん」
何も用件が伝えられないメール。突然の招集に、排他的な意思をちらつかせて。
「行ってみなければ解らん」
何が起こったのだろう。ただ、それが良からぬ事だというのは、審神者にも予想出来ていた。