宇宙混沌
Eyecatch

第6章:夏の暑さに [2/4]

鍛刀

「さて、昨日の分の仕事をかたすとするか」
 審神者は気合を入れると書類を取った。隣で、本日の近侍の石切丸が頷く。
「えーっと、まずは出陣スケジュールの調整……」
 急な出陣やら出張修理ですっかり狂ってしまった予定を元に戻さなければ。うちはブラック本丸ではないんだ、と審神者は意気込んで予定を印刷した表を引っ張り出す。
「あれ?」
 それには、審神者のものではない滑らかな筆跡で何やら沢山書き込みがしてあった。
『予定の組み換え案を作成しておきました。ご確認ください。一期一振』
「これはありがたい」
 さっと目を通して、石切丸にパスする。石切丸は「要入力」と付箋に書いてそれに貼ると、書類をパソコンの前に積み上げた。鯰尾達なら入力までやってくれるのだが、平安生まれの彼はどうしても機械類は苦手らしい。
「こっちも出来てるな」
「昨日は、一期君はずっとここに引き篭もっていたからねえ」
 審神者が後回しにしていた面倒臭い案件まで殆ど片付いている。何なんだ一期、お前優秀すぎか。
「うん、今日やる事無い」
 審神者は石切丸を押し退けてパソコンのモニターを点け、手早く先程の当番表を入力する。
「印刷して皆に配ったら今日の業務は終了!」
「おや、運が良い時に近侍に当たったようだね」
 出来上がった表を協力して配って回ったが、つい癖でまた執務室に戻ってきてしまう。石切丸もそんな審神者を見越してちゃんと戻ってきた。何もしないというのは性に合わないのだ。
「久々に鍛刀でもするかい?」
 石切丸が切り出した。そうだな、と冷たい畳に寝転がってゴロゴロしていた体を半分起こす。
「そろそろお前以外の大太刀を喚ばないとお前が大変だしな。つーか石切丸は五振も出たのになんで出て来ないの太郎さーん」
「こらこら、過度なメタ発言は良くないよ」
 あと江雪に聞かれたら今度こそ手籠めにされるかもしれないよ、と出かかったがそれは何とか飲み込む。
「しかし、お前転送装置使えたっけ?」
 鍛刀部屋に向かいながら審神者が尋ねると、石切丸は黙って目を逸らす。刀剣が操る傀儡を政府から送ってもらう為の転送装置さえ、石切丸は使い方を覚えられない。
「あっ、あんな所ににっかりさんが」
 石切丸がいつもの動きの遅さからは想像出来ない速さで青江を捕まえてくる。熱中症予防の為にクールビズが励行(というかほぼ強制)されたので、青江はジャージの前を開けていた。
「鍛刀かい? ああ、良いよ」
 審神者は資材を用意する。少ないが、まあ足りるだろう。
「大太刀狙いなのかい?」
「まあな」
 審神者が儀式を始める。集められた資材が少しずつ刀剣の形を成してきたが、完全に誰が来るか判るまで二人のやる事は無い。
「長さが足りないね。太刀かな?」
 石切丸の呟きから暫くして、審神者が振り返った。
「鶴丸国永だ」
「鶴丸国永?」
 まだ刀身の輪郭が漸くわかってきたくらいなのに、やけに今回は断言が早いな、と青江は首を傾げる。
「知り合いがいつも連れてるんだよ。間違いない。ま、間違ってても返送すれば良いだけだから」
 青江が転送装置に何やら入力する。間もなく音がして、転送装置から棺桶の様な箱がせり出てきた。
 青江と石切丸が協力して、その箱を審神者の前へ。ここから先は他の刀剣が居ると邪魔になるので、審神者を一人残して二人は外へ出た。
「これはまた、『高貴な』刀が来たね」
 青江が嘲るように言った。石切丸は苦笑する。
「此処も賑やかになりそうだねえ」

「よっ。鶴丸国永だ。俺みたいのが突然来て驚いたか?」
 精神との定着が無事完了し、傀儡を操れる様になった鶴丸は勢い良く箱から飛び出した。
「あー、うん、驚いたよ」
 審神者は全く動じていないくせに、口だけはそう返してやる。鶴丸の性格は穂村から色々聴いているので、慣れたものだ。
「そうか。じゃ、宜しく頼むぜ、主」
 審神者が差し出した自らの本体、複製された鶴丸国永を受け取って鞘に収めると、鶴丸は整った顔に笑みを浮かべた。
「お前は御物だったな。説明は不要か?」
「おう。此処には誰が来てるんだ?」
 傀儡や拵、衣装を作る関係で、予め政府の霊能者が有名所の付喪神にはコンタクトを取っている、という事は、いつぞやに一期がポロッと零していた。そうでもしなければ曲がりなりにも神様が一介の審神者の下について働くなどしないだろう。政府から直接計画の詳細を伝えられている御物や国宝達は飲み込みが速くて楽だ。
 所在が分からない刀剣には、最初に何処かで鍛刀された際に適当に見繕われた肉体と衣装がそのまま他の本丸でも使われている様だ。薬研の中身と外見のギャップはその所為もあるだろう。
「御物組なら一期と平野が居るぞ。挨拶するか?」
「ああ」
「っとその前に」
 審神者は鶴丸の腕を取った。袖を少し捲り上げ、手首に指を回して太さを測る。
「? 何やってんだ?」
「いや」
 体格は江雪とほぼ同じか、少し肉付きが良いくらいか。体を動かしていれば筋肉に変わってもうちょっと固くなるかもな、等と審神者は考えていた。
 手首の太さだけで大体の体格が判るのも大概だが、江雪よりも理想の体格に近いかもしれない鶴丸の肉体をどう拝もうか、と画策し始めている事に自分でも呆れてきた審神者だった。

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