期待などしない [6/8]
- 4月XX日
- 江雪様が来た。呼び続けてた甲斐があった。
- 4月XX日
- 江雪様はやっぱり強かった。初手合せで初めて負けた。
やっぱり、やめて正解だったのかも。 - 4月XX日
- エンからメール。次の学会行くらしい。
私は行かない。 - 4月XX日
- 特に何も無かった。
このままじゃいけないのは解ってる。
けど、進む力が私には無い。 - 4月XX日
- この前の論文のcitationが増えてた。
嬉しいけど、嬉しくない。こんなの誰だって出来る内容。
審神者だってそう。 - 4月XX日
- もうやめたい。解らない。
でもここでやめたら、あの時の繰り返しだ。私は何にも成れない。
「………………っ!」
「しーっ」
江雪は審神者の日記を読むのに夢中になり、廊下を誰かが歩いてきた事に気が付いていなかった。審神者かと思って振り向くと、そこには唇に指を当てた鯰尾が立っていた。
「上着忘れちゃって」
言いながら部屋の隅にくしゃくしゃと置かれていた黒い上着を拾う。
「ああ、戻せなくなっちゃったんです?」
鯰尾は上着に袖を通すと、タッチパッドを指でなぞって元の画面に戻した。
「主には内緒にしておきますんで。今度、色々機械の使い方教えましょうか?」
「……え、ええ。是非……」
鯰尾は日記の内容を知ってか知らずか、何も言わずに江雪を連れて食事の間へ。審神者は短刀達と楽しそうに笑いながら、出されてくる食事を一つ一つ褒めていた。あの日記の内容の暗さなど、微塵も感じさせない笑み。
しかし江雪に気付くと、またあの目。
江雪は黙って宛がわれた席に着いた。畑当番をしていた宗三が、疲れたアピールをしながらも様子がおかしい兄を気遣う。
「どうかした?」
「いえ……」
あの目は一体何なんだ。江雪の姿に、理想の自分を重ねるあの眼差し。望んだ道を歩めぬ事を嘆くのは、よくある事だろうが、一体何故、彼女は自分にそれを重ねるのだろう。
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Written by 星神智慧