宇宙混沌
Eyecatch

期待などしない [3/8]

「兄さまより広い部屋なんて駄目ですっ。僕が部屋を移動します」
 この本丸に左文字はもう一人、宗三左文字が既に来ていた。二人の服装は江雪のものよりかなり崩れていたが、左文字は皆、袈裟を身に着けていたので、江雪はきっと衣装の選別に深い意味等無いのだと自分に言い聞かせる。
 我儘で戦いを拒否する刀に神聖さを見出すなど、馬鹿げている。ましてや、好奇心からその意志すら突き通さない事にした、この自分に。
「僕が移動するよ。あの部屋は僕には広すぎる」
「お小夜も駄目っ。元々最初にお小夜が使っていたんですから」
 初めての食事を摂った後、三人は廊下で江雪の部屋をどうするかで揉めていた。
 この本丸には、八畳間と六畳間の二種類の部屋がある。部屋数自体に余裕はあるが、八畳間は人気があるので既に埋まっていた。
「私は部屋の大きさには拘りませんが……」
「僕が拘るんだよ」
「あの、じゃあさ……」
 小夜は何やらもじもじしている。宗三の端麗な、そして江雪の端整な顔を見上げた。その眼差しがどことなく審神者が自分を見ている時と似ているな、と江雪は思う。
「僕と宗三の部屋は間続きだから……くっつけて三人部屋にしよう…………駄目、かな」
「そんな事無いですよ」
 宗三は驚いた様に切れ長のオッドアイを見開いていたが、慌てて小夜の頭を撫でる。
「兄さまが良ければだけど」
「……ええ、そうしましょう」
 宗三の手が小夜の頭から落ちた後、江雪もその髪の毛に触れてみた。青い髪は見た目の寒々しさとは裏腹に、小夜の高い体温がじわっと伝わってくる。小夜ははにかんで下を向いた。
 これが、人の身体を得たという事か。
 手を離した後も残るその感覚を、江雪はゆっくりと指を曲げて握り締めた。

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