宇宙混沌
Eyecatch

期待などしない [2/8]

 喚び寄せられた江雪は、複製された刀に魂を封じ込められた状態で、二人分の声を聴いた。
「…………江雪……左文字……?」
 若い女の声。少し低めのその響きを、江雪は聴いた事がある様な気がした。
「間違いない?」
 先程とは別の、女と思われる落ち着いた声も聴こえる。その後、江雪は一旦意識を失った。

 目覚めた時には、真ん丸な二つの瞳が自分を見下ろしていた。
「コウ……雪左文字と申します」
 身を起こしながら名乗ると、審神者は唇を噛んで困った様な、緊張しているような表情で自分を見た。
 先程の考えは気の所為などではなかった。江雪は博物館で、彼女に会った事があった。
 今目の前に居るのは二十歳過ぎの女性だが、当時、彼女はまだあどけない少女だった。年齢の割に深い知見を感じさせる鑑賞の仕方、その眼差し……この眼にひどく惹かれたのだった。審神者になっているのなら、当時から霊力が強かっただろうから、その所為かもしれない。
 自分が何年も前の観覧者の一人を覚えていた事も驚きだが、江雪は、それ以上に驚いている事があった。
『コウ』
 博物館で彼女の友人が呼んでいた審神者の真名。それすらも記憶に刻んでいたなんて。

「江雪左文字、国宝、太刀、銘・筑州住左」
 背後から先程の声がした。振り向くと、自分の肉体が収まっている棺桶の様な箱の側面を、青い髪の少年が見詰めていた。その時、自身の髪の色も青みがかった白である事に気付いてギョッとする。見れば、衣裳は僧侶のそれの様だった。
「……あなたも、僕の兄に当たるんだね……」
 女性の様な、角が無く良く通る声がその口から漏れる。
「兄?」
「その子は小夜左文字。誰が言い始めたのかは知らないけど、同じ刀工に作られた刀同士を兄弟って呼んでるんだ」
 審神者は言って、鍛刀したばかりの江雪左文字の刀身を持ち、江雪に差し出す。
「国宝なら政府から話は聞いてるね?」
「……ええ」
「力を貸してくれるか」
 実際、拒否権なんて無いだろう。受け入れられて刀解されても、分霊は本体の所に霊力の形となって戻るだけだ。他の審神者から喚び続けられる限り、この戦いが続く限りは、何度拒否しても同じ事。
 それに、江雪はこの審神者の目を、もう少しじっくり見てみたいと思った。
「……致し方ありませんね」
 江雪は立ち上がると、審神者から自身を受け取って鞘に納めた。

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