宇宙混沌
Eyecatch

期待などしない [1/8]

 江雪左文字は己を喚ぶ声に辟易していた。
 歴史修正主義者を殲滅する政府の計画が始まって数ヶ月。国宝である江雪の元には、予め政府の霊能者から協力の依頼があった事にはあった。博物館で丁寧に保管され、戦乱の無い今の時代を喜びながら穏やかに眠っていたのに。時々展示される際に目覚めて、興味津々に覗き込む両の瞳を見詰め返すだけの存在でありたかったのに、何故。
 江雪はその時、派遣された霊能者にただ一言だけを口にした。
「拒否権は、無いのでしょう?」

 以来、様々な声が江雪を喚ぶ。政府の元で働く審神者が、更にその下で自分を働かせる為に付喪神の分霊を召喚しようとしているのだ。
 江雪は戦いたくなかった。出来る事ならば。未だなお現存する刀剣は少なくない。誰なりとその手となり足となる者は居るだろう。巻き込まれずに済むならその方が良い。
 己が振るわれる事で、生まれる新たな悲しみがある限りは。
 そうして江雪は審神者の召喚の儀式に抗う試みを始めた。御物等の、元々霊力の高い刀は喚び寄せにくい事で有名だが、江雪の場合は審神者の霊力が十分でもなかなか分霊を出さないものだから、審神者達の間ではレア扱いされていた。
 しかし、分霊を出す毎に、付喪神本体の霊力は少しずつだが落ちていく。江雪も近頃は審神者の声に応える事になる回数が増えた。
(ああ、また……)
 魂が分割された感覚。この世は、地獄だ。

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