宇宙混沌
Eyecatch

第4章:彼の部屋 [5/6]

誉争奪戦

「一期」
 審神者は着替えると粟田口兄弟の大部屋へと向かった。この部屋は板張りにカーペットや畳という誂えになっていて、仕切りを移動させる事で幾つかのスペースに区切る事が出来るようになっている。尤も、この兄弟は仲が良すぎていつも仕切りは部屋の隅に片付けられている様だったが。
「お呼びでしょうか」
 部屋の奥から微笑みを崩さない一期が颯爽と現れる。
「第一話に名前が出たっきりだったので、てっきり忘れられているのかと」
「そんな訳無いだろ。ところで、今日は私は留守にするので、本丸の事は君に任せた」
「かしこまりました。お気を付けて。……お供は必要無いのですか?」
 清光の部隊と江雪が急遽出陣する事になったのは、鯰尾や骨喰を通して一期の耳にも届いている。審神者は現世に行く時は清光をお供にする事が多かった。
「前田君を貸してくれるかな?」
 たまたま近くに居たので言うと、本人が「喜んで」と返した。
「あと、『誉システム』というのを考えたんだ。この前骨喰に貯まった誉と交換でカメラを買ってやったし、江雪にも相談されてな。一部の者だけに認めると不公平だから、皆にこのシステムの概要を伝えておいてくれ」
 今日出陣する者には私の方から軽く説明しておいた、と言いながら審神者はタブレットごと一期に渡す。内容を読んで、一期は言った。
「承知いたしました。これは皆の士気が高まる事でしょう」

「『誉システム』、どーよ、あれ」
 タイムマシンに乗り込みながら、和泉守が誰に話しかける訳でもなく言った。
「僕は賛成かな。これまで、誉って取っても褒められるだけでよく解らなかったし、取る事に意味が出来るなら皆頑張るだろうしね」
 堀川が最後にその隣に乗り込みつつ返した。
 タイムマシンの扉が閉まる。本日出陣するのは、清光、安定、和泉守、堀川、骨喰、そして鯰尾の代理の江雪だ。
「俺、主に誉十個貯まったら現世で一日デートしてってお願いしてきた」
 明らかに江雪に聞かせる様に清光が言う。
「ったく、相手は格下って判ってるんだから、鯰尾抜きでも何とかなるってのに」
 どうやら政府から相手の情報が全く無かった訳ではないらしい。清光が転送装置を起動する。準備が出来るまで暫くはこのままスタンバイだ。
「でも、江雪さんが来たからには、相当頑張らないと誉取れないね、加州君」
「第一、お前が誉取る事なんて普段からそんなねーだろ」
 そう、この部隊、清光が隊長ではあるが他の面子の方が誉泥棒ばっかりで清光の戦績はあまり良くなかったりする。
 動きが速く、抜群の切れ味で敵を砕く骨喰藤四郎。スイッチが入ると歯止めが効かない大和守安定。和泉守を狙う敵を片っ端からやっつけていたらいつの間にか功績を貯めている堀川国広。大体この三人で誉の取り合いをしている。
 行く前から精神攻撃を受けて清光のメンタルが以下略。
「江雪さんも欲しい物があるんだって? じゃあ僕は程々にするよう気を付けるよ」
 堀川の笑顔は無邪気だ。骨喰も堀川に同意したが、江雪は首を横に振る。
「いつも通りでいてください。この決まりの所為で全体の戦績が落ちたり、不正が行われたりしては意味がありません」
「僕は手加減出来そうにないから、そうさせてもらうよ」
 安定はマフラーで口元を隠した。堀川が安定に、誉を貯めたら何をねだるのか尋ねた。
「欲しいものか……特に無いなあ。……沖田君みたいに病気で苦しむ人が減ってほしいから、病院に寄付でもしようかなあ」
「あれ、なんか、天使が居るぞ?」
「見た目聖職者っぽい江雪さんが壁に手を突くくらいダメージ受けてるって事は、江雪さんは意外と私利私欲に塗れたものをねだったみたいだね」
 土方組の悪意も容赦も無い攻撃。
「……あの、準備終わったから転送開始するよ?」
 全員が頷くのを確認してから、清光はスイッチを押した。

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