第4章:彼の部屋 [4/6]
「ご覧なさい小夜。あれであの二人、まだ契ってないんですよ?」
食堂へと続く襖と反対側、縁側に出る障子の隙間から、宗三と小夜が殆ど一部始終を見守っていた。
「江雪兄さまも主も真面目だなとは思うけど、宗三兄さまはちょっと悪趣味だよ……覗きなんて」
「ふふっ。でも、面白いじゃないですか」
言うと二人は審神者に見つからない内にその場を去った。宗三はなんだかんだで兄の恋路は応援しているつもりである。
しかしそれよりも、小夜には気になる事があった。兄の寝言と審神者の言葉。
(そうか……あれは彼女の真名なんだね……)
これからは自分も気を付けなければ。とんだ事を知ってしまったな、と小夜は無意識に口を押さえていた。
江雪は朝餉を食べながら内省していた。
(あんな夢を見るなんて……)
神隠しなどしたくない、というのが上辺だけの決意だったと認識し、猛省する。
いや、したくない気持ちも確かにあるのだ。彼女には現世に帰って、彼女の人生を歩んでほしい。神隠しなど絶対してはならない。
だから自分は彼女に近付かない。向こうから近付いて来るならその分下がる。そうするしか、今は彼女を守る方法が解らない。
自分から彼女を守る方法を。
食堂の扉が開き、赤い目と青い目の少年が話しながら入ってくる。赤い目の方が江雪の姿を見て、睨み付けると直ぐに目を逸らした。
(……しかし、むざむざ他の者に奪われるくらいなら)
江雪も加州の事を一瞥すると、手に持っていた味噌汁を掻き込む。
(私は……隠してしまうでしょうね)
江雪が箸を置いたのを見て、皿を片付けに来た歌仙が話しかけてきた。
「江雪は相変わらずよく食べるね。ところで宗三を知らないかい? 当番の途中で姿が見当たらなくなって……」
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Written by 星神智慧