宇宙混沌
Eyecatch

第5章:厨にて [7/8]

「熱中症だな」
 薬研は笑いを堪えながらそう言った。薄着にされ、布団に寝かされた江雪は、恥ずかしさに顔を赤らめる。
「まあ、こんな暑い夜に鎧袈裟なんて着てたら倒れもするさ」
「暑いの苦手なのに、さっさと着替えないからだよ……」
 心配そうに江雪の顔を覗き込んでいた小夜も、薬研の言葉に呆れ顔だ。宗三は堪え切れずに口を手で押さえて笑っている。
「ったく、武具一つ外さずにこんな時間まで待ってるなんて……」
 審神者も呆れたがとにかく大事無くてほっとした。身体は幾らでも替えが利くとはいえ、皆が苦しむ姿やついさっきまで熱を感じていた体を廃棄する所は見たくないものだ。
「ほんと……今日の兄さまは様子がおかしいですよ」
 笑いが収まったのか宗三が言った。その肩を薬研が突き、気を利かせて弟二人を連れて外に出る。
「……何をそんなに気にしているんだ?」
 気を遣われた事を感じたので、素直に尋ねてみる。江雪は寝返りを打って審神者に背を向け、飾りが外された耳が露わになった。
「……変な虫が纏わり付いているそうですね」
「虫?」
「清光から聞きました」
 はて、と首を傾げたが、すぐに思い当った。穂村の事か。
「あー、あれは清光の気にしすぎだって。大学の同期が審神者やってるんだよ」
 江雪が視線だけを此方に向ける。
「何とも思ってないって。私は」
 そう言うと審神者は立ち上がり、背後の襖を蹴った。廊下から「ひぃっ」と宗三の情けない叫びが上がる。
「だから盗み聴きは良くないよって言ったじゃない……」
「おー気配消してたのに流石だねえ大将」
「お前等……」
 襖を開けて三人の頭を軽く小突く。普段は人を振り回す審神者だが、この審神者にしてこの刀剣達あり、という本丸である。
「ま、気付いたのは私じゃなくて江雪だけどね」
 アイコンタクトだけで通じ合える事もあるのに、肝心な所で誤解の絶えない二人なのであった。

Written by