宇宙混沌
Eyecatch

第6章:過去 [6/6]

 縁側に座って月を見ながら昔を思い出していると、小さく廊下が軋む音がした。視線を前に向けると、安定がふらふらと向こう側の縁側を歩いている。
「…安定」
 向こう側の人物が顔を上げて此方を向いた。
「…鯰尾…?」
「寝ないんですか?」
「人の事言えるのかい?」
 安定は中庭を通って真っ直ぐに鯰尾の所まで来た。
 安定が主の夜伽の相手である事は、実はかなりの刀剣が勘付いている。鯰尾もその一人で、これまで安定を誘う事は避けていた。無いとは思うが、主の機嫌を損ねて刀解されるのは御免だ。かつての骨喰そのままではなくても、少しは以前の面影を残す彼の側に、居たいから。
 しかし鯰尾はまだ自分が果てていない事もあり、今日は主は寝込んでいる事だし、と考えて誘ってみる事にした。自分が最大限、情をそそる様な顔になるように微笑む。
「骨喰が自分だけ気持ち良くなって寝ちゃったんで」
 安定の顔を見詰める。彼の目元が滲んでいる事は、月明かりの下でも解った。
「…泣いてたの?」
 安定は答えない。何が原因かは解らないが、鯰尾は他人の弱みに付け込んで半ば無理矢理関係に持ち込む事だって辞さなかった。
 ただ、この現実を忘れたい。かつての骨喰の幻でも良いから、逢いたい。
「ねえ…馬鹿、な事、する?」
 安定が目を見開いた。自分が誘われるのは意外だったのだろうか。
「全部忘れられるよ」
「…おお」
 その返答に鯰尾は満足げな笑みを浮かべる。縁側に背中から倒れて安定に身体を差し出し、浴衣の帯が解かれていくのを見守る。
「あ、待って」
 鯰尾は安定の手を握って止めた。初めてする相手には、言っておかなければならない事がある。
「浴衣は脱がさないで」
 腕の傷は、骨喰以外には見せたくなかった。自分の傷や弱さや恥じらいなく腹の上で善がる姿を見て良いのは、骨喰だけだ。
 安定が鼻で笑う。
「着たままする方が興奮する?」
「そうじゃありませんよ。ただ、お願い」
 好きにしてもらって構わない。この傷を見たがらない限りは。
「良いよ」
 安定は素直に浴衣を放した。ホッとした鯰尾は、彼の両手が首元へ迫ってきても、ただ撫でるだけだろうと思って気にも留めなかった。
「殺してやるよ、子猫ちゃん」

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