宇宙混沌
Eyecatch

第6章:過去


 一人善がる鯰尾の髪の先を指に絡める。汗でしっとりと濡れたそれは、滑らかな白い肌を滑って解けた。
 骨喰の傷は、日に日に薄くなっていった。手の傷に限っては、もう手袋が無くても言われなければ気付かないくらいだ。しかし、骨喰は主の気持ちが嬉しくて、戦で汚れようが破れようが、何度も洗い繕って毎日身に着けている。
 その一方で、鯰尾の傷は日に日に生々しさを増していた。

 鯰尾は、骨喰よりも後に此処へ来た。記憶は殆ど無かったが、骨喰は彼を見てすぐに解った。
「兄弟」
 新入りだ、部屋が足りないから同じ部屋になった、と微笑みながら部屋に来た鯰尾をそう呼んだのは、以前彼をどう呼んでいたか忘れてしまったから。
 指示された部屋の中に居た者にそう呼ばれた鯰尾は、顔を強張らせ目を見開いて言った。
「……骨…喰…」
 しかしまたすぐに笑顔を繕う。
「髪、切ったんだ。洋装も似合うね」
「兄弟は、俺の過去を知っているのか?」
 鯰尾は凍り付いた様に動きを止めた。
「…どういう意味…?」
「江戸で大火に遭ってな。それ以前の記憶も、その後の意識も殆ど無い。お前が兄弟だというのは、解るんだが」
 骨喰は淡々と言う。鯰尾は羽織の裾を握り締めた。
「そっか…。俺は鯰尾藤四郎。豊臣の所で骨喰と一緒だったんだよ。俺は骨喰より先に焼けてさ、同じだよ。それより前の事は途切れ途切れ…」
「じゃあ、兄弟にも痕があるのか?」
「え?」
 骨喰は手袋を外した。来た時よりはかなり薄くなっていたが、まだはっきりと判る火傷の痕。
 それを見て鯰尾は黙って羽織を脱ぎ捨てた。上半身を露わにし、背を向ける。
 鯰尾の両腕から背中にかけて、骨喰と同じ様な文様が刻まれていた。
 骨喰は立ち上がり、鯰尾の背中に垂れている長い髪を前に除けた。じっと眺めた後、手の平を凹凸のある肩に乗せる。鯰尾の首の後ろに自分の頭を預け、慰めにもならない言葉を吐いた。
「辛かったな、兄弟」
 鯰尾は堪え切れずに嗚咽を漏らす。畳にぽたぽたと、雫が落ちた。
「骨喰……」

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