宇宙混沌
Eyecatch

第6章:過去 [1/6]

 いつまでも、しがみついてはいられないんだ。

 骨喰藤四郎は髪の先から汗を滴り落とす鯰尾の顔を見上げていた。
「ッ…アフッ…」
 必死に堪えてはいるが、鯰尾の口からは時折声が漏れる。かく言う自分も、鯰尾の肉に包まれ激しく動かれては到底声を上げずにはいられなかった。
「シーッ」
 大きめの善がり声を出してしまった後、腰の動きを緩めた鯰尾が人差し指を口の前に当てて骨喰の顔を覗き込んだ。
 その腕を、生々しい火傷の痕が覆っている。具現化された癒えない鯰尾の心の傷。
「隣の兄弟達が起きるよ」
 鯰尾は骨喰がその傷を見ている事に気付かず、楽しそうにそう言うと、再び体を起こして腰を振り始める。数秒も経たぬ間に、彼の意識から目の前の骨喰の事など消え失せた。
 そんな鯰尾を、殆ど毎晩、骨喰はこうやって眺めていた。
「兄弟、今日は眠い」
 今日は二人とも出陣した。それなのにこんな元気が何処にあるんだ、と骨喰は呆れるが、寧ろ鯰尾は敵と相見[あいまみ]えたした日に限って激しくしたがった。
 鯰尾は聞こえていないのか無視しているのか、何処にも焦点が合っていない目を潤ませながら動き続ける。
「兄弟」
 もう一度呼んでみた。今度は「んん?」と首を傾げてから、口を寄せてくる。入ってくる舌を拒みはしないが、積極的に絡めたりもしない。鯰尾は暫く骨喰の口の中で遊んでいたが、気付けばまた元の体勢に戻っていた。鯰尾は自分で自分の良い所を知っているので、特段骨喰が何もしなくても勝手にやっている。
 この行為を骨喰に教え込んだのは鯰尾だ。骨喰は大火で焼かれ、それ以前の記憶を失った上に、それ以降は付喪神としての力も弱り、此処に呼び寄せられるまで意識が無かった。同じく刀身を炎に包まれた経験があるものの、それ以前の記憶も少しは残っており、それ以後も意識があったらしい鯰尾は、人間の情事に関しても良く覚えていたようだ。
 鯰尾が言うには愛情の確認の為の行為らしいが、それにしては一方通行すぎる。それくらいは骨喰も解っていた。
「あっ…骨喰…」
 鯰尾が自分の名を呼ぶ。しかしそれすら、誰か自分とは違う他の誰かを呼ばれている気がしていた。

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