宇宙混沌
Eyecatch

第2章:記憶


「骨喰」
 鯰尾は隣に寝かされている筈の兄弟を呼んだ。
 二人はぼろぼろになるまで戦った。手を緩めれば向こう側に引き摺り込まれる様な気がして、我を忘れる勢いで敵を斬った。
 部隊は勝利したが、今回は殆どを鯰尾と骨喰とで始末したので、帰り道は歩く体力すら残っていなかった。長谷部と倶利伽羅にそれぞれ担がれて手入れ部屋に連れて来られてからも、暫く話す気力も無かった。
「骨喰?」
 返事が無いので顔を横に向けて彼を見る。骨喰は目を開いて薄暗い天井を見詰めていた。
「起きてるなら返事してよ」
「鯰尾」
 鯰尾は呼ばれて表情を固くする。声が掠れた。
「…何?」
「俺は…」
 何か言おうとして、瞳も口も閉じる。二秒後、再び開くと続けた。
「少し、思い出した」
「本当に!?」
 勢い良く起き上がり、腕に受けた傷が治りきっておらず痛みに呻く。骨喰が珍しく微笑んだ。
「秀吉だ。あれは本当に俺をよく自慢していた」
「他には?」
 怪我した部位を擦りながら布団に横たわり直す。
「兄弟が居たな。背の高い…名を何と言ったか、いちごなんとか…」
 鯰尾はその名を聞いて心臓を大きく一跳ねさせる。
「一期一振」
「そんな名前だったか」
 骨喰はそんな鯰尾の緊張など気付かない。薄い微笑みを浮かべたまま続けた。
本丸[ここ]にも早く来たら良いな」
「どうだろう。主は霊力不足だから」
 ここ暫く仲間が増えていないし、望み薄だ。
「もう一人親しい者が居たと思う」
 鯰尾は今度は口をきゅっと引き締めた。
 骨喰の記憶が戻ってきてくれたのは嬉しい。だが、それは同時に、今此処に居る骨喰が、鯰尾だけの、鯰尾だけを慕う骨喰ではなくなってしまう事でもあった。
「居たと思う?」
「名前が…顔もあやふやだ」
「…気の所為じゃない?」
 鯰尾は骨喰に笑いかける。
「…そうかもな」
 言うと骨喰は目を閉じる。暫くすると規則的な寝息が聞こえてきた。
 鯰尾は布団の中で拳を握り締めた。
(三日月宗近…)
 骨喰が慕っていた刀。鯰尾よりも骨喰とは付き合いが長く、骨喰を慕う鯰尾を見ては余裕ぶった笑みを顔に貼り付けていた。
(思い出さないでくれ…)
 そうすれば、骨喰は過去の幻影を追い求める事に夢中になってしまうだろう。昨日までの鯰尾の様に。

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