宇宙混沌
Eyecatch

胸の痛みと恋ときみと [1/5]

「よっ」
 鶴丸国永は突然両肩を叩かれ、少々うんざりした顔で振り返った。そこには、愛想良く微笑む自分の顔。
「久し振りだな。そっちの面子は元気かい?」
 その本丸の鶴丸は自分よりも口数が少ないのか、少し低く掠れた声で尋ねられた。
「ああ、相変わらずだ」
 此処は万屋街。審神者と刀剣男士の為の商店街だ。審神者が同行しなくても、刀剣達は自由に買い物に来る事が出来る。それほど買い込んでいない辺り、買い出しではなく暇潰しの様だ。自分は主のお伴なので、今は買い忘れを確保しに行った主を見て向こうは判別したのだろう。
「そうか。しかしつれないねえ、眉間に皺が寄ってるぞ」
「きみ、自分が俺に何をしたかを忘れたのか?」
 もう一人の俺は笑う。
「冗談だ。それより、良い物をやろう」
 唐突に懐から何やら小さな瓶を取り出す。中には一錠、カプセル剤が入っていた。
「何だその怪しい薬は」
 こんな風に取り出されて怪しまない訳がない。鶴丸は警戒して手を伸ばさなかった。
「俺の主が趣味で作ったものだ。必ずや驚きの結果をもたらそう」
「そっちの主は医者だったか」
 ならば少なくとも、身体に悪いものではないだろう。それに、つい「驚き」という単語につられてしまう。瓶を受け取った。
「そっちでは誰か飲んだのか?」
 もう一人の自分は口の両端を吊り上げる。
「最近は乱が非番の日に飲んで楽しんでいるな。最初は一期に飲ませたんだが、まあ主の言葉を借りれば『超面白かった』」
 鶴丸は決断した。帰ったらあの水色の君に飲ませよう。
「カプセルの中は無味無臭の粉末だが…おっと、ご無沙汰している」
「ああ、あいつのとこの。積もる話あるなら俺先帰るけど?」
 待たせといてアレなんだけど、と言いながら自分の主が戻って来たので、話が途切れた。その隙に、鶴丸は瓶を懐へ。
「いや、ちょいと世間話してただけさ」
 彼と別れると、鶴丸は主と共に本丸へ。転送装置[ワープマシン]の中で、目ざとい審神者が鶴丸の胸の下を小突いた。
「何を貰った?」
「さあ。一期に飲ませると最高に面白いらしい」
 この主に隠し事をしても無意味か。観念して鶴丸は小瓶と、中のカプセルを見せる。
「…そういえばさっき店で茶の試供パックを貰った」
 瓶のラベルに書かれた文字が知り合いの筆跡である事を確認すると、審神者は買い物鞄から三つ、茶葉の入ったパックの袋を出した。
「これを口実に飲ませろってか?」
「俺は何も言ってないぞ」
 鶴丸は笑みを零す。
(なんだ、主も結局気になるのか)
 転送装置が動き出す。少し気持ちの悪い感覚に襲われた後、気が付けば二人は本丸の装置の中に居た。

闇背負ってるイケメンに目が無い。