一部始終を見ていた宗三は、小夜が庭から戻って来そうになった所で慌てて踵を返した。部屋に居なければ怪しまれる。
(とんでもない事を聞いてしまいましたね…)
なんとか布団に滑り込む。呼吸が落ち着いてきた頃に小夜が戻って来た。
(それにしても…)
今剣が何やらただならぬ気を発している事は承知だ。今更秘密の一つや二つあると知ったところで驚きはしない。
気になるのは、小夜の言葉。
『例え僅かな時間であってもね』『あなたの忠告に耳を貸さないなんて、理由があるからに決まってるじゃない』
人間の命は限りあるものだし、そもそも歴史修正主義者との戦いが終われば自分達はお役御免、またただの付喪神に戻る。しかし、小夜の言い方や今剣の反応からして、どうやら自分達の時間はそれよりも更に短いらしい。
(小夜は何処からそんな情報を…?)
これまで現世に行った事がある者は清光のみ。とすると、小夜の想像がまたもや的を得ていたのか、それともこの本丸の中にヒントがあるのか…。
(それに、今剣の忠告に耳を貸さない理由…)
此方は忠告の内容が解らないので考えようがない。
すっかり目が冴えてしまった宗三の隣で、小夜は寝言を呟く。
「…あさん…」
宗三は腕で体重を支えて小夜の顔を覗き込む。目尻に涙が滲んでいた。
「おかあさん…死なないで…」
宗三は小夜の頭をぽんぽんと優しく叩いた。おかあさんとは、以前の持ち主の事だろう。
(いずれにせよ、「その時」とやらが来ない事を願いますよ…)