「鯰尾達、怪我大した事なくて良かった」
安定と主は、ああ言われてもやはり気になったので、夜になってからそっと手入れ部屋の様子を見に行った。中では兄弟が仲良く並んですやすやと眠っている。
「そうだね」
主は部屋に戻ると褥を準備して安定を呼ぶ。
「あー」
安定は彼女の誘いを受けるかどうか迷った末、言った。
「今日は、良いや…」
「? どうしたの?」
今まで主の方が体調を理由に断った事はあれど、安定の方が断るのは初めてだ。
「実はさ…」
理由を説明しない事で主を傷付けるのも忍びない。今剣からの忠告を素直に教える事にした。
「それは私も言われた」
「!? じゃあ、なんで…」
「ちょっとくらい寿命が縮んでも良い!」
主は安定に抱き着く。
「安定が好きだから…」
安定も彼女の背中に手を置いた。その言葉は本当なのか? もし本当だとすれば…。
「…俺、連れてっちゃうかもしれないよ?」
人間としての幸せなど、取るに足らないと言うのなら。兄の事など二の次だと言うのなら。自分にはいつでも覚悟がある。
主は一瞬頷きかけたが、こう言った。
「神様の世界? えっと、それは、審神者の仕事が終わってからに…」
安定は主を離した。やっぱり。
「じゃあ、それまではなんとか『人間』のままでいないと駄目だろ」