宇宙混沌
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第7章:粟田口兄弟は一途でありたい


 夜。日帰り遠征から帰って来た鶯丸の部屋に、隣の粟田口の部屋から一期が尋ねて来た。
「どうしたんだい? こんな夜更けに」
「お尋ねしたい事があります」
「俺より鶴丸の方が存外物知りだが……遠征か。まあ良い、座れ」
 勧められた座布団の上に腰を下ろす。常備しているお茶セットから手早く二人分を準備し、目の前の机に置いた。
「大阪城はどうだった?」
「え? ああ、随分と良くなってきているようです。もうすぐ一斉討伐も終わりましょう」
 そうすれば今度は過去へ。自分達の戦いが終わるわけではない。
「何も思う所は無いのか」
「昔の事は殆ど覚えておりませんので」
「ふん。まあ良い。本題を聴かせてもらおうか」
「……にっかりは審神者の部屋に居たそうです」
 彼は夕餉の席にひょっこり顔を出した。すっかり元気そうな彼にこっそりカマをかけてみたところ、つまりはそういう事らしい。
『主がどんな味だったか知りたいかい? 君にあの「神力」は無理……』
 煽る様に話す彼の口を塞いで連れて行ったのは石切丸だ。
「鶯丸殿、『神力』とは一体何なのです?」
 鶯丸は茶を啜り、一期をその切れ長の目で見詰めた。蝋燭の様にゆらゆらと光量が変化する工夫がなされた室内灯に照らされ、その眼光が増す。
「誰もよく知らない」
 その答えに、一期は唾を飲み込む。期待出来る答えだ。この男が良く知っている事ほど「さっぱり知らない」としらを切る事は長い付き合いで承知である。
「俺自身、持ち合わせていないものだからな。この本丸で持っているのは審神者と、石切丸……はっきりとは判らないが太郎太刀」
「どうやって区別するんです?」
「その流れを読む」
 鶯丸は戸棚から菓子の袋を持ってきて一期に勧めたが、茶にすら手を着ける余裕が無い一期は結局一つも食べる事はなかった。
「源から無尽蔵に湧き出るのが神力、いずれは枯渇するのが霊力だ。それ以外にはこれといった特徴は見られないが、人間の体は神力への耐性が弱い」
「ふむ」
「俺達付喪は神と呼ばれているとはいえ、実の所妖怪の一種だ。普通は神力など持ち合わせない。石切丸の様に長い間神として祀られてこない限りはな」
 審神者の様に神に愛されて生まれてきた人間も稀に持つようだが、と付け足す。
「しかし、人間の体は神力に弱い……」
「しかもその力は無尽蔵。定期的に発散してやらないと自滅する、という所だな」
「なるほど……」
 言って黙り込む一期に、鶯丸は忠告する。
「俺も青江の意見に賛同だ。あの力は一介の付喪神が手懐けられるものじゃない」
「ええ、存じております」
 そんな事くらいは。青江ですら丸一日寝込んでいたのに。
「……ところで、もうすぐ神無月だな」
 部屋を辞そうとした一期の背を、そんな言葉が叩く。
「……ええ、そうですね」
「この国中の『神』が出雲に集う時だ」
 それ以上の説明は、必要無かった。

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