「光忠遅くないか?」
「そうか?」
大倶利伽羅に言われ、鶴丸はキャベツを刻んでいた顔を上げた。時計を見ると、彼が出て行ってから四十分以上が経っていた。肉を買うだけ、万屋までは転送装置で一瞬だから、十五分もあれば余裕で戻って来ると思っていたのだが。
「様子を見てくる」
「あっずるいぞ伽羅坊」
鶴丸のサボりたそうな声を背中に受けつつも、無視して大倶利伽羅は転送装置へ。
「?」
小屋に入ると、装置が何やらエラーを起こしていた。ランプが見た事無い色で光っている。
「主」
「ん?」
慌てて審神者の部屋に行くと、ちょうど休憩する所だったのか、審神者が机の上を少し片付けていた。
「転送装置がエラーを起こしている。それから、光忠が戻って来ていない」
「力ずくで開かないって事は、ロックだな」
大倶利伽羅と審神者は、光忠達が装置の中からやったのと同様にして、外側の取っ手を引っ張ってみた。ビクともしない。
「斬るか?」
「やめとけ。稼働中に異物が混入すると大事故になる。あと多分刀身も無事じゃ済まねえぞ」
審神者は少し考えてから、踵を返した。
「とりあえず専門家に連絡する。大倶利伽羅はとりあえず様子を見ててくれ」
「どうやったら整理できるんだろう」
一方装置の中では、すっかり鶯丸による人生お悩み相談室の様になっていた。完全な密閉空間かつ、精密機械で壁や扉の厚さがそれなりにあるので、それこそ初めに大声を上げた様なやり方でなければ外の大倶利伽羅へは声が届かないのだ。逆もまた然り。
「そうだな……他に好きな者でも見つけたら良いんじゃないか?」
「簡単に言うけどねえ……」
「なに、とりあえず遊びでも良いから気を紛らわせるというのも有効だ」
言いながら、少しは鶯丸も焦り始めていた。
酸欠が始まっている。
(正常な転送にかかる時間は長くても一秒以下……長時間中に滞在出来る様に設計されていないな……)
「そっか……そうだよね!」
光忠の声が急に明るくなった。そして、彼の手が暗闇を弄って、鶯丸の肩を掴んだ。
「? 何を……」
「ごめん、鶯丸さん……」
そのまま光忠の方を向かされる。彼の荒い吐息が鼻先にかかり、鶯丸は状況を理解した。
「とりあえず遊びでも良いから、気を紛らわせてくれない?」