暗い狭い空間に閉じ込められる話 [2/5]
何分経ったのだろう。
「鶯さん、時計とか持ってる? 僕は台所に置いてきちゃって」
「持ってはいるが、明かりが無いと見えんな」
「そうだよね……」
誰かが来る気配は無い。それとも、既に誰かが外で救出作業をしているが、やはり中には音が届かないのだろうか。
それとも。光忠の頭に嫌な想像が浮かぶ。
「鶯丸さん、この転送装置って、箱の中にあるものを一回情報レベルまで分解して、別の場所で再構築する、って仕組みだったよね?」
「詳しい事はわからんが、そうらしいな」
「もしかして僕達、それで変な場所に再構築されちゃったとか……?」
嫌な沈黙。だが、暫くして鶯丸は否定した。
「故障したのは扉を閉めた時だ。まだ転送先の指定もしていなかったから、分解もされていないだろう。それに、扉も取っ手もある。俺達の本丸じゃなくても、どこか別の本丸か現世の装置の中のどれかに居るのは確実だ」
その論理的で冷静な言葉に、光忠は随分安心した。と同時に、違う事に意識を向ける余裕が出てくる。というか、否応なしに意識がいってしまう。
……匂いだ。
戦の後だからか、鶯丸の身体からは汗のような、香水のような、甘くは無いが甘く鼻腔を刺激する香りが漂ってくる。転送装置は六人が立って入れる程度の大きさしかない。その為どうやっても彼との距離は近く、意識しない様にすればするほど、先程一物を触ってしまった事もあって、煩悩が光忠を襲った。
「狭くないか? もっとこっちに来ても大丈夫だぞ」
鶯丸が親切にも、床をぺちぺちと叩いて示す。その心を無下にも出来ず、隣に並べば彼の色香は無視できなくなってしまった。
「鶯丸さん」
「なんだ?」
「もしこのまま見付からずに死んだらどうしよう?」
「縁起でも無い事を言うな。そうだなあ……。燭台切はやり残した事でも?」
「ヤリ残した事でも?」と聴こえてしまい、光忠は一瞬狼狽えた。
「う、えっと……」
「そういえば、気持ちの整理は付いたのか?」
心臓が跳ね上がる。誰への気持ちかは、本丸中に筒抜けだった。
「……僕は、家庭のある人を無理矢理どうこうしようとかは思わないよ」
「そうか。いや、恋の病が辛そうだなと思ってな」
「恋……かなあ」
この本丸の審神者には色々と事情があり、その事実が光忠を含め、多くの刀剣達を惑わせた。それを、恋と呼べるのだろうか。
「口ではそう言っておきながら、何かに付け審神者の顔を見に行くのは、恋い慕う者の姿を目に焼き付けようとしているように見えるが?」
その事もバレていたのか。
「鶯さんには敵わないなあ」
「どうせなら死ぬ時は心穏やかに逝きたいだろう? その心の靄が、早く晴れると良いな」
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