宇宙混沌
Eyecatch

第3章:愛され系審神者は根は真面目だ [3/3]

 という事で、早速本日出陣予定だった光忠と小夜の部隊は、転送装置で訓練場へ。遠征二日目に当たっていた一期と隊員の弟達は、休日になるので庭で大縄跳びをしていた。
「訓練場、楽しみだなあ」
「私達の番は明日ですな」
 秋田の言葉にそう返す。
 確かに出陣や遠征の密度は上がっているのだが、審神者が作ったシフトは刀剣達の疲労が溜まらないよう配慮されていた。戦力も、一軍と一期の隊以外は概ね、隊によってばらつきが出ないようになっている。一期は前の審神者の時も弟達を強化する部隊を率いていたので、そのままの編成にしておいてくれたのはありがたかった。
「そろそろ昼餉だ。一旦片付け……」
 太陽の位置から正午が近付いた事に気付き、弟達を引き揚げさせる。その時、転送装置がある小屋の方で物音がした。
「どなたかが帰って来られましたか?」
 誰かが確かめに行くまでもなく、小屋の戸が開く。そろそろ戻ってくると知っていたのか、審神者も縁側に沿ってやって来た。
 隊長の小夜が戸を開け、隊員達がぞろぞろと出て来る。大倶利伽羅は、怪我をした少年を抱えていた。
「お手柄!」
 審神者がそう声をかける。愛染か? と一期は思ったが違った。オレンジ色の髪に、黒い制服、そして赤縁眼鏡。
「博多!?」
「博多だ!」
「大丈夫ですか!?」
 粟田口の兄弟が大倶利伽羅の周りに群がる。大倶利伽羅が博多の体を一期に預けると、博多は安心して泣く気力が出たらしい。
「いち兄ぃ! 壊れたぁ!」
「大丈夫、怪我は治せるから」
 大倶利伽羅は一期が弟を宥めている間に、審神者に博多の本体を渡す。
「少し欠けちゃったみたいなんだ」
 下方から小夜が説明した。審神者は中身を取り出し、精査する。
「此処か」
(小夜による傷だな)
 刀身に付く傷は、付喪神の分霊の霊体に付く傷でもある。審神者はそっと、刃が欠けた部分に指を翳す。指を外した時には、その傷は跡形も無く消え去っていた。
「手入れ部屋行って来い」
 傀儡の方の傷は審神者の霊力では治せない為、博多をあやす一期に言った。去り際に、博多に彼の本体を握らせる。これで博多藤四郎の所有権は審神者に移った。
「まさか初日に博多を貰ってくるとは思わなかった。でかしたでかした」
 どうやら、訓練場では政府の審神者によって召喚され、敵に扮した刀剣達と手合わせし、一定以上の成績を修めると戦った部隊に居る刀剣のいずれかか、資材を貰えるというシステムらしい。資材を抱えていた歌仙と蜂須賀も、手入れ部屋兼鍛刀部屋へ。
「僕達は、もう上がって良いかい?」
「ああ、十分だ。お疲れ。あ、小夜」
 石切丸達の後を追って部屋に戻ろうとする彼の袈裟を掴む。
「お前は手入れ部屋だ」
 審神者が袈裟を引っ張ると、ザックリと斬られた左腕が露わになる。
「……あの治療液、嫌いなんだ」
 この時代では医療技術の進展により、大体の外傷は青い治療液に患部を漬けておけば治る。
「俺も好きじゃないが……痛いよりマシだろ」
「体の痛みなんて……」
 小夜は途中で言葉を切った。
 これは、あの人が怪我をした時、前の審神者に言っていた言葉。
『大した事、ありませんよ』
 珍しく中傷を負って帰ってきた兄に、審神者も珍しく取り乱していた。
『身を斬られる痛みなど、心に比べれば。貴方が悲しむと私も悲しいのです』
(あの後どうしたんだっけ……)
 確か、「だったらつべこべ言わずにさっさと手入れ部屋へ行け!」と飛び蹴りを食らって重傷になって手入れ部屋に突っ込まれたような……。
 小夜は新しい審神者を見る。
「?」
「うん……手入れ部屋行くよ」
 噂によればこの審神者、あの前審神者の知り合いらしい。前審神者の様に化けの皮が剥がれたら強烈かもしれない、と思った小夜は、素直に従う事にした。

 昼食後。審神者は執務室でパソコンの前に居た。
(さーて、小夜も帰ってきたし、今日の観察経過でも書くか)
 まずは宗三。内番が五人一組の所為で暇だったからか、午前中いっぱい縁側に座って「僕は籠の鳥だから仕事も貰えないんですね……」とかなんとかブツブツ言っていた(その代わり別の日に仕事あるんだが……)。精神状態は良好。
(そういや、新しく来た奴らの名札も発注しとくか)
 実はあれはただの名札ではない。いや、業者に作って送ってもらった段階ではただの名札だが、審神者がその後霊的な細工を施している。
 主な機能は、以下の二つだ。
 一つは、名札を持った者が審神者に近付いた時、その者の名前を審神者に知らせる。名札に書かれた名前ではないので、例えば今剣が清光の名札を持っていたとしても、ちゃんと今剣だと判るので安心だ。
 もう一つは、持ち主の気の高ぶり方を審神者に知らせる。これは、小夜と宗三の名札にのみ仕込まれている。前審神者の協力を得て、予め二人の髪の毛を入手し、本格的な[まじな]いをかけた。その為本来は思考を事細かに読める筈なのだが、左文字兄弟は閉心が上手く、大体の気分しか読み取れていない。
 とにかく、二人と直接接触しなくても、これである程度観察は出来るという事だ。審神者の霊力では半径五十メートル以内の距離に居ないと名札から出ている霊的信号をキャッチ出来ないが、どうせ名札を付けているのは本丸の中だけだし十分だ。
 なんだかんだで霊力を使いこなしている審神者である。なお、昼間っから宗三と長谷部が子供に言えない様な事をしていた事も、たまたまその時に宗三の様子を見ようとしたが為に知ってたりする。男ばっかの本丸コワイ。
(小夜は、と……)
 発注を済ませ、記録入力画面に戻る。
(……顔青くしてたなあ)
『体の痛みなんて……』
 何を言おうとしたのかはわからないが、その後に続く言葉に喜ばしくない何かを思い出したのは確かだ。
(まだ兄の事を引きずっている様子が目に見える、と……)
 審神者はパソコンを閉じる。まさか小夜が顔を青くした理由の半分以上が「前審神者の素行が悪かったので知人である審神者の事を警戒した」なんていう不名誉なものだとは思いもよらずに。

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