宇宙混沌
Eyecatch

第3章:愛され系審神者は根は真面目だ


 次の日。審神者は、本来寝床とする筈の離れへと続く廊下に居た。
(くっそ……取りに行かない訳にはいかないしな……)
 審神者には、日々様々な通知や仕事が政府から送られてくる。殆どは執務室にあるパソコンにメールで届くが、一部の刀剣達には秘密にしたい要件は、管狐が審神者の離れに直接持ってくるのだった。
(流石に三日も放置したし、緊急の依頼とかあったらヤバイ……首は切られたくない……)
 踏ん切りが付かずに廊下を行ったり来たりしていたら、今剣に見つかってしまった。
「あるじさまー! おひまならあそんでください」
「拒否する」
 今こそ緊急時! 管狐より今剣の方が怖い! 審神者は全力で結界の中へと駆け込んだ。
「あたっ」
 今剣は結界に失念していたのか、渡り廊下の途中にある見えない壁に額をぶつけてしゃがみ込んだ。
「いたい……」
(いまつるが泣いてる!)
 部屋の戸を開けようとしていた審神者は振り返る。今剣は審神者の好みにドストライクなのだ。霊力さえ弱ければ。
(俺のいまつるが泣いてる!!)
 さてどうする審神者。泣いている可愛こちゃんを放っといて良いのか?
(俺のいまつるがn(ry
 という事で気付いたら彼に手を差し伸べていた。
「ほら」
 今剣は顔を上げる。見る間にその表情が変わった。
「つーかまーえたっ」
 子供とは思えない力で、結界の外に出ていた腕を掴まれる。審神者は恐怖に目を見開いた。
「あそんでくださ……」
「審神者様! やっといらっしゃいましたね!?」
 救われた。背後から迫る管狐の声が、こんなに安心するものとは。
「今行く」
 今剣は、管狐の姿を見て手を離す。部屋に入っていく審神者の背を見送り、呟いた。
「……ひかれているのは、おたがいさまでしょう?」

「まったく! 三日も留守にされるなんて! 緊急の要件があったらどうするつもりですか!」
 管狐が傀儡を荒ぶらせて怒りを露わにする。審神者は舐められないよう上から目線で返した。
「って事は、別に急ぎの用事なんて無いんだろ?」
 今度から毎日見に来るから帰った帰った、とあしらう審神者に、管狐は何度目かわからない溜息。
「無いですけど! 聴き逃すと損するお知らせならありますよ」
「何だ?」
 この三日間に送られてきた書類をピックアップしていた審神者は顔を上げる。
「第二回大阪城一斉討伐の前に、訓練場を開放します」
「演錬場とは別の?」
「はい。良い戦績を上げた部隊には報酬として、政府直属の審神者が鍛刀に成功した、召喚難度の高い刀剣男士を差し上げます」
「それいつから?」
 管狐は尻尾を向けて、素っ気無く答えた。
「その紙に書いてます」
 管狐は去る。手に持っていた書類に目を通した審神者は、焦って思わず声を上げた。
「うぇっ、明日からかよ」

「という事でとりあえずはこの当番表の通りに働いてくださーい」
 訓練場が開放される日の朝、審神者は食堂に赴いて、昨夜遅くまでかかった当番表を皆に配った。
「出陣と遠征は六人グループ、掃除・洗濯と料理・畑・馬の世話は五人グループで回す。獅子王の隊は人数少ないが、太郎と次郎が居るしどうにかなるだろ」
 質問は? と気だるく皆を見渡した審神者に、和泉守が噛みつく。
「休みが週一しかねーじゃねーか!」
「遠征が二日分あるだろ? それを日帰りで帰ってくりゃ二日目は丸々休みだよ。大体、本来内番[かじ]は政府から給料の出る雇用労働の範囲外だから、法律的にもそれは最低でも週休三日」
「はいはーい」
 反論出来るポイントは無いかと当番表のあら捜しをする和泉守の隣で、堀川国広が元気良く手を上げた。
「出陣も遠征も無い曜日があるけど、どうしてですか?」
「詳しい事情は言えねえが、その日は審神者は現世に帰ります」
 だから怪我しそうな仕事はナシ、と言って、審神者は座る。場所はやっぱり今剣の隣である。
「あ、言い忘れた。今日から暫くは、政府が用意した訓練場に行ってもらいまーす。それが終わったら大阪城の一斉討伐」
「あるじさまは、いつやすむんですか?」
 皆でいただきますをしてから、今剣が尋ねた。
(俺仕事に帰るなんて一言も言ってないのに何で知ってんだよ)
(べつに、ただのかんです。まえのあるじさまも、『けんぎょうさにわ』ってやつでしたので)
 ううむ、これは会話に気を付けないとうっかり色んな情報を漏らしてしまいそうだ。

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