畳に押さえ付けられた手首に力が込もる。一期は何も言わずにどうしたものかと考えた。
というか、これはどういう状況だ? 審神者の神力は今、出雲にあって、審神者はただの霊力の強い人間に戻っている。少なくともこのまま青江の様に力を受け渡す行為が行われる訳ではないだろう。
審神者の顔をもう一度良く見る。端正な造りの下に、醜い劣等感が潜んでいた。
「お前は俺の何処が好きなんだ? 言ってみろよ」
顔か? 霊力か? と煽ってくる審神者に、一期は静かに返した。
「では……どこを好いてもらえば満足なのです?」
自由にならない手首はそのままに、脚を伸ばして審神者の腿を絡め取る。慌てて審神者は逃げようとしたが、今度はその手を一期が捕まえて倒した。顔と顔との距離が詰まる。
「その臆病な所ですか?」
「……違う」
「では節操の無い所でしょうか?」
「違う!」
唾を飛ばす審神者を自由にしてやる。素早く部屋の隅まで下がった審神者を見ながら、口の横に飛んだ飛沫を舐め取った。審神者は苦虫を噛み潰した様な顔をしたが、一期は気にせずに間合いをまた詰める。
「その相貌も力も、貴方の良い所です。少なくとも私はそう思います」
「取って食われてもか?」
「貴方になら本望でございましょう。尤も、」
一期は審神者を追い詰める。審神者が襖に伸ばした手を掴んだ。
「今日取って食われるのは、どちらでしょうな?」