第1話:愛され系審神者はオカルトが嫌いだ [2/4]
十分後、この本丸に元々居た刀剣達が一同に会した。
「今日からこの本丸の審神者でーす。審神者名は『あい』。よろしく」
やる気の無い挨拶に続く、やる気の無い拍手。誰がどう見ても覇気が感じられないのだ。これで明るく元気に歓迎しろと言う方が無理だ。
「『あい』って言う名前だから、女の人だと思ったのに」
群集の後ろの方で、鯰尾藤四郎が小さく白髪の兄弟に漏らした。
「女が良かったのか?」
審神者名は実用上の理由で各審神者に付けられる仮の名前だ。真名を推測できない様、少し捻って付けられる事が多く、別に男が可愛らしい審神者名を持っているのは珍しい事ではない。
「男の人じゃ触る楽しみも覗く楽しみも無いじゃない」
「兄弟がそんなに女好きだったとは……びっくりだ……」
骨喰藤四郎は顔を青くしてドン引きする。前の方で審神者も内心驚愕していた。
(あの二人……女じゃ無かったのか……)
予め、刀剣の傀儡は男性ばかりだとは聞いていたが、ちょっと期待したのに残念である。
「では、私達の自己紹介でも」
「ああ、ちょっと待て」
場の雰囲気を変えようとした、青髪の青年の言葉を審神者が遮る。荷物の一つを持ち上げた。
「この人数だ。一人一人プレゼンされても絶対覚えきれねえから、名札作って来た」
言って袋をひっくり返す。中からガシャガシャとアクリル製の名札が連なって出てきた。しかも名前だけでなくそれぞれのシンボルマークまで入っている手の込み様。
(……こいつ……本当は凄く良い奴なのでは……!)
近くに居た大倶利伽羅が目を見開いた。審神者はその顔を見て、更に表情を強張らせる。
「名前呼ぶから取りに来てくれ。愛染国俊」
「おう!」
赤い髪の子供が立ち上がる。
「よろしくな!」
(こいつは表裏無い。大丈夫そうだな)
名簿を見ながら次々と読み上げていく。
「一期一振」
「私です」
「お前か」
斜め後ろに控えていた、先程の青年に投げ渡す。一期は一瞬それを見詰めてから、ワイシャツの胸に留めた。
「今剣」
「はーい」
ぴょこぴょこと群集の隙間を縫ってやって来た愛くるしい彼を見て、審神者は思わず口元を緩めた。
……のは束の間だった。
(…………)
震えそうな手を何とか抑えて名札を手渡す。今剣は両手でそれを受け取りながら、審神者に念を送って来た。
(おかお、こわいです)
審神者は平静を装って返す。
(俺はお前の方が怖い)
さっと手を引っ込めて次の名を呼ぶ。
「大倶利伽羅」
シャツの下は汗をかいていた。
(ったく、今剣、分霊の癖にそこらの付喪の本体や妖怪と同じくらいの霊力溜め込んでやがる……)
しかもそれを気取られない様に自ら封じている様だ。とりあえずおっかない。
「俺だ」
隣に居た色黒の男を見ない様にしながら渡す。次は清光だったので、何も言わずに近くに居た彼に渡す。
あと二人程呼んで、やっとさ行に突入した。
「小夜左文字」
その名を口にしてから、審神者は大切な事を思い出す。政府や前任の審神者に頼まれ事をしていたのだ。
「……よろしくね」
名札を受け取って去ろうとする物静かな子供に、審神者はもう一つ、持って来ていた荷物を差し出した。
「前の主からだ」
長細い包み。それが何か、小夜以外の皆も勘付いていた。
「受け取らないなら、」
審神者の言葉を遮る様に、小夜はそれを奪い取る。大事そうに両手で抱えて、ネクタイを締めた子供たちの輪の中に戻った。
(……こりゃ時間かかりそうだな)
また二人程呼んで、今度は春の様な色合いの袈裟を来た男がやって来る。
「僕に取りに来させて、歴代の主の…………」
とか何とか言っては居たが、そう言われている割に審神者は面白そうに口を歪めそうになっていた。
(なるほど、真っ直ぐ進めない、ね……)
「次、鶴丸国永」
「俺だ」
「知ってる」
「?」
鶴丸はキョトンとしたが、審神者の失言だったらしい。
「何でもねえ」
まだまだ折り返し地点だ。そろそろ飽きていた鯰尾は、自分の名を呼ばれているのに気付かず、骨喰に小突かれて腰を上げた。
「すみません! 鯰尾藤四郎です」
審神者は黙って名札を渡す。その目が、何もかも見透かしている様で、鯰尾は気味の悪さを覚えながら自分の場所へ。
「どうした? 兄弟」
「あの人、霊力強いね。油断すると飲み込まれそう」
「ああ。他人の思考も読めるのだろう。兄弟も閉心術を覚えろ」
そんな話をしていると、骨喰の番が来た。骨喰は名札を受け取ったが、その場から動こうとしない。
「何だよ」
「読心とは趣味が悪い。訊きたい事があるなら、口を使え」
他の皆にも聴こえる様、今剣の様に念は使わなかった。閉心出来る刀剣達が警戒し、一斉に心を閉ざす。審神者の頭に響いていた三十名程の者達の心の声が、半分程度になった。
「俺だって、まさかこんなにだだ漏れだとは思ってなかった」
審神者は骨喰の目を見詰める。骨喰も黒くて切れ長の瞳を見た。
「戦う時はどうしてるんだ? お前等、霊力で時空を移動するくらいの奴等と戦ってんだろ? 作戦が読まれてたらどうする?」
その言葉には反論出来ない。全員が黙りこくり、次の言葉を甘んじて待つしかなかった。
「読まれたくなきゃ自衛しろ。俺は読むのをやめない」
審神者が次の者を呼ぶ。テンションは低いものの、一応は新しい主を歓迎しようとしていた雰囲気が、一瞬で暗く重たいものになった。
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