第1話:愛され系審神者はオカルトが嫌いだ [1/4]
「では此処に真名をお書きください」
背が高くハンサムな男は、玩具の様な狐の指示に従って札に名前を書き加えた。一人と一匹が居る離れ全体を、強力な結界が包み込む。
「これでこの本丸の刀剣達はこの離れには入れず、私はこの結界から出られません。寝所として使う他に、緊急時の避難場所としてお使いください」
「緊急時ね」
顔と同じく甘い声が素っ気無く言った。可愛らしい傀儡を与えられている管狐は、良くわからない動きをしてから溜息を一つ。
「乗り気で無いのは解りますが、審神者様がその様なお気持ちでは刀剣達の士気も下がります。此処は何卒」
「やる気が無いのは認めるが、俺はお前にさっさと帰ってもらいたい」
明らかに警戒している声色で言った。大きな目が狐を、いや、正確にはその傀儡のやや後ろを睨む。
「政府に手懐けられてるのかなんだか知らんが、俺は憑物妖怪幽霊その他諸々の奴等となるべく一緒に居たくねえんだよ」
それを聴いた管狐は、小さく悪態を吐きながら姿を消す。数秒後、気を抜いた審神者の全身からドバっと汗が吹き出した。
(ったく、政府は何考えてる? 使役するならもっとまともな妖怪なんていっぱいいるだろお!)
審神者は心に決める。管狐が自由に出入りする上に付喪神に助けを求める事も出来ない場所で安心して寝泊まり出来る気がしない。折角家具を運んでもらったが、母屋の空き部屋を一つ借りる事にしよう。
この審神者は、諸事情の為、自らの知人が運営していた本丸をまるっとそのまま引き継ぐ事になった。
元々、政府が熱心にスカウトしていたのは、知人ではなく自分の方だった。なんとかこれまでは断り続けていたものの、結局、身から出た錆でこの仕事をする羽目になった。尤も、見知った者が管理していた本丸で、既に顕現している刀剣達もそのまま貰えるという事なので、かなりイージーモードでのスタートとなる訳だが。
(はぁ~……。気が重い……)
離れから母屋へと続く渡り廊下では、政府直属の刀剣である加州清光と、彼より十センチ程背の高い青い髪の青年が、新しい審神者が現れるのを待っていた。
清光が人の気配に気付いて顔を上げる。洒落たジャケットを羽織った男が荷物を手に部屋から出てきた。
「俺達の本丸にようこそ」
「引っ越し作業、お疲れでしょう」
清光達が笑顔を作ったが、審神者の表情は固い。
「こちらこそよろしく。仕事内容は大体前の審神者から聞いた。今日は本丸の案内と、皆の紹介を頼む」
清光とは既に一度、現世で顔を合わせている。無視された様になったもう一人の方は、少しむっとして気取られない程度に審神者の顔を睨んだ。
完璧と言っても過言ではないくらい整った顔。
(……これは……)
「粟田口の部屋広いし、そこに皆集めよっか?」
彼が抱いた感想は、清光の質問に掻き消される。
「え、ええ……そう致しましょう」
どうぞ此方へ、と審神者を導く青髪の青年に、審神者は内心、
(……なんか母屋も危険な気がしてきた。自分で別の結界張ろっかな)
等と警戒し始めていた。
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