第12話:愛され系審神者の愛される所以 [1/3]
「しっかし、妙な光景だよねえ」
旧暦の神無月が終わる日。青江は粟田口の大部屋に並べられた傀儡を見て、そう零した。
眠っている面子は、短刀から太刀まで様々だ。大太刀の三振は、隣の部屋から次々と彼等を運んで来る。
「もう十分だ」
最後に、審神者が鯰尾をお姫様抱っこで運んで来る。白い髪の兄弟の隣に横たえると、布団をかけた。
これから審神者は一期の神域に入る。神力が離れている今、審神者が自身の霊力を使い果たせば、ジ・エンドだ。一部の刀剣達から、受け止められるだけの霊力を移してもらった。それよりも前に肉体が衰弱する可能性もあるが、鍛えているし数時間は持つだろう。
鶯丸の提案した計画の危険性はそれだけではない。もう、審神者には神力に対する耐性が無いかもしれない。これから本丸総出で迎え討つわけだが、万一、一期の神域が破られて神が審神者の身体に入ろうとすれば、その時点で死を迎える。他にも、普通に封印に失敗して暴れられて戦いに巻き込まれるとか、色々。
しかし、もう後戻り出来ない。戦わなかったとしても、神は審神者の肉体を未だ御神体だと思って戻ってくるだろう。耐性がどうなったかは神力に晒してみる他に確かめようがないので、言わば審神者は設定時刻の分からない時限爆弾だったのだ。
「最後に、もう一度確認する」
正三位らしく、キビキビとした口調で日本号が言った。
「大太刀の三人は神力の衝突を避ける為に、離れの方には来んじゃねえぞ。博多・長谷部と一緒に寝てる奴等を守れ」
「了解!」
「フン、主命だからな」
博多が元気良く返事をした。長谷部はあくまで主命だと言い張る。日本号は無視して続けた。
「新選組の奴等は離れの周り、四方をそれぞれ一人ずつ」
「任せな」
和泉守が応え、四人は先に自分の持ち場へ。
「薬研は手入れ係だ。臨時で加州の部屋まで装置を持ってきてる」
「霊的な傷は治せんが、身体の傷は無理せず来いよ」
「前田と平野は離れの中、神域の外」
「お任せください」
「守ってご覧にいれます」
「残りの奴等は俺達と一緒に出雲の方角を守る。良いな?」
起きている全員が頷く。部屋の外に出た。
「すぐに外してくる」
離れへと続く廊下、結界の手前で粟田口の兄弟を待たせて審神者は中へ。この結界は刀剣と管狐専用で、例の神には何の役にも立たない事が判っている。邪魔になるだけなので解除するのだ。
部屋では、可愛らしい傀儡が待っていた。
「まさかこんな事になるなんて」
狐を無視し、審神者は結界を有効化している、真名の書かれた札の前へ。
「今一度、お考え直しください。計画の事をちゃんと政府に伝えて……」
「したけりゃすりゃ良かっただろ? 鶯丸も俺もそれには同意した。じゃなかったらお前に相談したりしない」
審神者の指が札にかかる。管狐は何も言わなかった。
「俺の命がいつ爆発するかわからない時限爆弾だって事は、百も承知だったろ? あとは、丁度良い御神体を用意出来るかどうかだ」
「うう……」
「憑物を安定して封じ込められるくらいだからなあ」
審神者は指に力を込めた。真名を真っ二つにして、札が破ける。同時に、刀剣達を避けていた結界も消え失せた。
一期が中に入ってくる。左手に持っていた刀を抜くと、瞬時に狙いを定めて振り下ろす。
可愛らしい見た目の、不思議な動きをする傀儡へ。
「お前が封じられてる物の本体なら十二分だろう」
審神者の最後の言葉を、管狐は聞いただろうか。
「ひっ」
後ろからついてきていた前田が、驚いて平野に飛び付く。二人の横を、何かが飛び去って行った。
審神者は動かなくなった傀儡に近付く。空振りをしただけなので、外側の玩具は割れてはいない。首を外して中身を取り出すと、何やら札の貼られた筒のようなものが転がり出た。札は一期の霊力で真っ二つに避けている。
「お見事」
古い札を剥がして、審神者は新しいものを用意した。いつもの文様を手早く描くと、先程の筒に貼り付ける。
「鶯」
離れの窓を開けて、外で待機していた鶯丸に投げ渡した。
「さて、隠れよう」
「平野、前田」
兄に言われ、二人は一度退席する。一期は審神者と向かい合うと、その手を取った。
その気になれば、このまま彼を自分のものに出来る。しかし、自らの主を隠す事は、自滅と同じだ。直ぐに誘惑を振り払う様に頭を振り、審神者を見ると笑っていた。
「……随分と落ち着いていらっしゃる」
「まあな」
審神者の手に力がこもる。一期も微笑み返した。
「ここまで来たら信頼する他無いだろ?」
「ええ、お任せください」
一期は息を吸い込み、その名を呼んだ。
♥などすると著者のモチベがちょっと上がります&ランキングに反映されます。
※サイト内ランキングへの反映には時間がかかります。