宇宙混沌
Eyecatch

第4章:愛され系審神者には守るべきものがある


 とは言え、一日もあれば噂が回るのがこの本丸だ。審神者が仕事を終えて帰ってくると、ニヤニヤとした鶴丸が出迎えてくれた。
「聴いて驚け。いちに想い人が居るらしい」
 審神者の肩に馴れ馴れしく腕を回す。鶴丸からは酒の臭いが、審神者からは付けたての香水の匂いがして、二人はなんとなく体を離す。
「……知ってる。多分俺」
「こりゃ驚いた」
 遅くなってしまった審神者が一人、食堂で夕餉を食べ、母屋に戻ってくると、先程の情報は秘匿しておくべきだったと滅茶苦茶後悔した。
「主、一期君を誑かしたんだって!?」
「前の主の知り合いだとは聞いていたが……良くない所だけ共通しているみたいだな……」
 覚えの無い罪状を突きつけられ、審神者は慌てる。二人共、酒を飲んでいるようだ。
「待って、なんでみっちゃんもくりちゃんも刀抜こうとしてるの? ねえ待って話し合おう和睦和睦」
「なんで僕じゃないの!?」
「どうして俺じゃないんだ?」
 うっかり同時に口にした二人は顔を見合わせる。鶴丸がケラケラと笑う横を、審神者は全速力で自室(結界)まで戻った。
「……何してるの?」
 小夜が審神者の食器を洗い終わり、自室に戻ろうとした所で鶴丸達を見付ける。光忠と大倶利伽羅は、恥ずかしさからなのか酔っている所為なのか、顔を真っ赤にしたまま突っ立っている。
「おい小夜坊、きみも飲めよ」
「お酒?」
「万屋で次郎が買ってきたんだ。次郎達の部屋で酒盛りしてる」
「僕は良いよ……あと、部屋の前で騒がないで」
 鶴丸達を追い払い、小夜は自室へ。灯りを点けると、壁際にある漆塗りの拵えの太刀が視界に入る。
 布団を自分で敷き、服を着替えて横になる。明かりを消す前に、もう一度、その太刀を見た。
「おやすみ、江雪兄さま」
『おやすみなさい』
 彼は今も、あの人にそう応えているのだろうか。

 携帯で審神者から連絡を受けた清光は、次郎の部屋の襖を音を立てて開いた。
「はーい撤収ー」
「えーアンタも飲みなよう」
「撤収と言ったら撤収。……一期と光忠と伽羅はなんで潰れてんの?」
 主に想いが筒抜けだった挙句、本丸中に噂が広がってしまうし、ライバルが予想以上に多かったのだ。完全に自棄酒の会と化していた。
「一期君、君、これからどうするつもり?」
「そう言う光忠殿こそ……」
「俺は諦めない……」
 一期と光忠にキッと睨まれ、大倶利伽羅はちょっとビビる。清光は三人に近付いた。
「ヤりたいだけなら、してくれると思うけど」
とかいう爆弾発言を投下しながら。
「「「はっ!!!???」」」
 潰れていた三人が一斉に起き上がる。部屋に居たその他の者も聞き耳を立てた。
「面白い話をしているね?」
 青江が続きを急かす。清光は言ってしまってから、しまったなという顔をした。しかし、言おうが言うまいが、審神者の身の危険度には大差無いだろう。
「肉体の交わりって霊力の交わりでもあるじゃん? 普通は霊力の強い側が弱い側のを吸い取っちゃうけどさ、審神者とか霊能者って自分の意志でその流れをコントロールできるわけ」
 うんうん、とその場に居た全員が頷く。但し部屋の隅に敷かれた布団の中でお行儀良くスヤァしている太郎太刀を除く。このどんちゃん騒ぎの中でよく寝れるな……。
「んで、前の主から聞いた曰く、新しい主は誰かと交わる事で定期的に自分の霊力を相手に分け与えて削ってたらしいんだ。特定の相手ばっかりに霊力を流すと、肉体の方が霊力に追いつかなくなるから、とっかえひっかえ」
「要は体良く遊んでたって事だね」
 次郎太刀が簡潔にまとめる。
(まあ実際はその行動が仇となって審神者になったんだけどさ……)
 審神者にとってはかなり深刻な悩みであるという事は、言わないでおいた。
(現世に妻子持ちだなんて言ったら皆の嫉妬が爆発しそう……)
「それで、つまり?」
 清光が言いたい事を一応は想像できたらしいが、ちょっと信じたくなさそうに一期が尋ねる。
「つまり、霊力を削る目的でなら誘いに応じてくれるかもっていう事」
 第一、今日だって夜遅くなったのはどこかで遊んでいたからに違いない。初日も審神者は仕事だった筈だが、その日は夕餉前にこっちに来ていたし。
「あ、でも、この話俺がしたってのは内緒にしててね?」
 じゃないと首が飛ばされそうだ。一期に光忠に大倶利伽羅という、一番まともそうな刀剣達があっさり審神者の虜になっている現状に、清光は溜息を吐いた。
(ま、神隠しされるよりはマシだよね……)

Written by