宇宙混沌
Eyecatch

第4章:愛され系審神者には守るべきものがある [1/5]

「お忙しそうですな」
 水曜日。料理当番だった一期は、昨日からまたも執務室に引き籠っている審神者に食事を運んで来た。
「置いといてくれ。今は飯食う余裕もねえ」
 木曜日には現世に戻らなければ。その準備を大急ぎでしていた。
「冷めない内にお召し上がりください」
 一期は縁側に盆を放置して、一度去る。粟田口の部屋の前に来た時、足を止めた。縁側に座っていた鳴狐が顔を上げる。
「どうかした?」
 珍しく、本体の方が声を発した。代理の狐はというと、ぽかぽかと春の様に過ごしやすい気温に、膝の上で丸まっていた。
 一期は名札を外し、鳴狐に渡す。
「暫く、持っていていただけませんか」
 そう言って踵を返す。今度は縁側とは反対側の廊下から執務室を目指した。
(情けない事でございますな……)
 一目惚れなど。ましてや、自らの主に。
 しかしあの完璧な顔の造形、甘く心地良い声、手の込んだ慎重さ、表に出さない几帳面さ。全てが奥ゆかしく愛しく感じられた。彼の事を考えるだけで胸が踊り、側に居るだけで心が跳ねる。
(江雪殿の気持ちが少しは解った気がします)
 これが、魂に惹かれるという事なのだろうか。
(しかし、あの霊力は人間離れしている……)
 そこが気がかりなのだ。神隠しだって、神域を自力で破る? そんな事が出来るのだろうか。隠されてしまう時点で、その者の力は隠す側よりも弱い筈なのに。
(これは……もしや……)
 嫌な想像をしながらも、一期は部屋の前にしゃがみこんで襖の向こうの様子を探る。恋をしてしまったからには、相手の事を知り尽くしたいと思ってしまうのは仕方が無い。しかし、こう、若干ストーカーっぽいのは前の審神者[あるじ]の影響か?
 執務室では審神者が小テストの問題を考えていた。審神者は高校の非常勤講師をしている。流石に年度途中で投げ出す訳にはいかず、春までは毎週、現世と此処を行ったり来たりの予定だ。尤も、審神者は早く審神者なんか辞めたいと思っていたが。
「うしっ」
 配点まで考え終わり、審神者は伸びをする。サイレントにしていた携帯をチェックした。
『検査行ってきた。順調だって』
 一通だけ来ていたメールを読み、審神者は一瞬微笑んで、すぐに複雑そうな顔をした。
 廊下の一期に、障子が開いた音が届く。一期は立ち上がり、その場を離れる。鳴狐から名札を返してもらい、再び執務室の前へ。
「別に待ってなくても良いぞ」
 食べ終わった審神者が盆を差し出しつつ言った。
「すみません。急かしてしまいましたか?」
「いや、今日は元から急いてるけどさ」
 そして忙しそうに障子を閉める。一期は今日の所の接触は諦め、厨へ食器を戻しに行った。

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