山姥切は主の初めてを手伝う [2/2]
「山姥切国広……」
「ああ長谷部」
俺は体勢を変えず、顔だけをそちらに向けた。
「良い所に来た。あんた、主を押さえ……だっ」
長谷部が瞬時に俺達の所まで来ると、俺の脇腹を蹴飛ばした。俺が呻いている間に、俺の下の主を救い出す。
「主、お怪我はありませんか。山姥切! 主に乱暴するとは……」
「ちが、違うの! ……まんばちゃん大丈夫?」
咳き込む俺を心配しつつ、主が説明し始めた。
「私が頼んだの」
「しかし、今どう見ても手籠めに……」
主は長谷部に顔を向けている。長谷部も主の言葉を聞くのに必死だ。
俺は手の中の物を持ち直すと、そっと主の耳元に近付けた。
「あーだから誤解……」
バチン!
「ひっ!?」
「ほら、終わった」
長谷部も主も呆気に取られている。俺はファーストピアスを開ける器具をゴミ箱に放った。
「山姥切、今何を……」
長谷部は主の耳を確認する。そこには、緑色の石が嵌った耳飾りがついていた。
「主が」
俺は床に落ちていたパッケージの袋も広い、捨てる。用意してあったもう片方のパッケージも開けた。
「ピアス穴を開けたいと。なのにいざ開けようとすると尻込みするもんだから、手を焼いていただけだ」
ほら、と反対側を向かせ、もう片方にも開けてやる。
「痛くなかっただろ」
「ちょっとは痛いよ!」
主は部屋の隅に置いてあった買い物袋の中から消毒薬を出し、穴に塗る。
「なんだ、人騒がせな……」
「長谷部こそ、ノックも無しに」
「主の怯える声が聞こえたから、万が一の事もあるかと思って」
俺は信用無いな、と思ったが、長谷部はすぐに非礼を詫びて自分の部屋に戻っていった。主を振り返ると、俺の卓上鏡でピアスの様子を見ている。
「失敗してないか?」
「えっ開けてからそれ言う?」
「あんたが最初からじっとしてれば良かったんだ。それで?」
俺は聞くより早い、と顔を寄せる。問題はないみたいだな。
「……とにかく、ありがとう」
「どういたしまして」
俺は立ち上がり、箪笥を開ける。小さな包みを取り出した。主に差し出す。
「何?」
「ホワイトデーだ。二ヶ月遅れだが」
「…………ありがとう」
「二ヶ月は今つけてるやつを外すなよ!」
主が中身を出す前に、うっかりネタばらしをしてしまう。
いそいそと主が紙袋から中身を取り出した。花の耳飾り。
「穴を開けないタイプと間違えた。だから、あんたがちょうど開けたいと言ってくれて、助かった」
「ありがとう!」
眩しい笑みが視界全体に入った。俺は、つい顔を背ける。
「あんたが先にくれた、その礼だ」
「うん」
じっと手の中のものを見つめている主に再度、暫くはファーストピアスから替えないように忠告する。
「解ってるってば」
「なら良い」
「早く穴が安定しますように」
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