宇宙混沌
Eyecatch

第9章:宗三左文字に悪意は無い [2/4]

「取って食われるのは、どちらでしょうな?」
 その言葉を聴き取った鶯丸は、廊下で審神者の部屋の襖に耳を付けたまま、腰の太刀を少しだけ抜いた。いつでも部屋に踏み込んで、斬れる。
(俺とて斬りたい訳ではないのだが……)
 しかしこれが、彼がこの本丸に放り込まれた目的であった。
 増え続ける神隠しに、ブラック本丸。政府だってそれを見過ごす訳にはいかなかった。とは言え、審神者以外の人間を本丸に派遣する事は時に危険でもある。神隠しや刀剣男士の謀叛が起こりかけている本丸なら尚更だ。
 そこで考えられたのが、政府直属の審神者が鍛刀した、政府の為だけに動く刀剣男士を派遣する事だった。しかし、各本丸には既に初期刀という、似たような役回りの刀剣が居るし、あからさまに「お前の本丸は要注意リストに挙がっているので監察官を送る」等と言えば警戒されてしまう。政府は考えた結果、「イベントの賞品として差し出せば良い」という結論に至ったのだ。
 鶯丸と博多は勿論、日本号も、この本丸が抱えている問題については政府の方から伝えられている。小夜左文字の心のフォロー、一期一振の監視、審神者の神力……問題が多い本丸にはその分多くの刀が派遣される。
 そして、今度この本丸で神隠しが起ころうものなら、その刀剣を折っても良いと、鶯丸は許可を受けていた。
(実際には、許諾ではなく命令だな……)
 衣擦れの音がする。どのタイミングで踏み込むべきか。神隠しが起こらず、双方同意の上で行われるなら自分が邪魔をするのは野暮というものだ。尤も、この流れからして審神者の方が望んでいるとは思えなかったが。
 その時、部屋の向こう側から博多の声が聴こえた。旧知を斬らずに済んで鶯丸はホッとする。
 一期が去って暫くしてから、襖を叩く。反応が無いので開けると、すぐ下で審神者が放心状態で寝転がっていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫に見えるか?」
「大丈夫そうだな」
 鶯丸は太刀を収め、審神者の濡れた唇を指で拭った。予想外の行動に、審神者は仰向けのまま目を丸くする。
「つか、もっと早くに助けに来い」
「いつから気付いていたんだ?」
「最初からだ。お前が居ないなら、縁側に逃げた方が良い」
 審神者の部屋の廊下を挟んで向かいは空室だ。陸奥守や歌仙の部屋が近いが、陸奥守は内番で不在だし、歌仙は部屋で雅な趣味に没頭しているとなかなか気付いてくれない。中庭から姿の見える縁側なら、助けが求めやすい。
 審神者は漸く起き上がる。鶯丸を中に入れてやり、襖を閉めた。
「知っててあんな事をしたのか? 一応あれも俺の友だ。手荒な真似は止せ」
 審神者は何を思って一期一振を押し倒したのか。
「場合によってはお前の首が飛ぶ」
 答えない審神者に鶯丸は追い打ちをかける。
(それが答えか)
「まあ、何も無かったから、良いか」
 鶯丸は笑うと、部屋を辞す。残された審神者は、再び寝転がりながら呟いた。
「持て余す気持ちは解らんでもない」
 人が神の力を持て余す様に、人ならざるものは人間の肉体を持て余すだろう。
「それが此処を含め、あちこちの本丸で起きてる問題の元凶だ。解ったら上に伝えとけ。いい加減、付喪に玩具を与える様な後手後手の戦略じゃなくて、敵の正体や本拠地を暴く様な根本的なやつに切り替えるべきだってな」

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