「取って食われるのは、どちらでしょうな?」
一期の手が顎に添えられる。生々しい欲情を目の前にして、審神者は「痴漢に遭うってこんな気持ちなのかな」と妙に落ち着いて思いながらも、その身体は一ミリたりとも動かせなかった。
それは、普段見せない鋭い目付きが、一期一振の持つ美しさを引き立てていたから、というのも理由の一つだろう。
大体いつだってそうなのだ。危険だと解っていても、手を伸ばしてしまうのは。隠される責任は自分にだって重々にある。
生温い感触が唇から伝わってくる。諦めが審神者の手を動かし、彼より少し小柄な青年の背に回されようとした、その時。
「いち兄ー! たっくさん録画できたばい! 今剣の映ってるとこは綺麗に編集して審神者に売る!」
今や服を脱ぎかけていた一期は慌てて襟元を正すと、何事も無かったかの様に背筋を伸ばして廊下へ。その際、隣の執務室を経由するのも忘れない。
「博多」
「いち兄! なんばしとったと?」
「少し執務の手伝いを」
「ふうん」
粟田口の部屋に向かい、博多は兄に背を向けた。
「主人は今日は休日たい」
そう発せられた言葉に、後ろをついて歩いていた一期は体が一瞬硬直した。足音のリズムが崩れ、博多が振り向いた。赤縁眼鏡の奥からギラギラした瞳が見上げてくる。
「……次は首が飛ぶかんね」
「……ああ、気を付けるよ」
一期は全てを悟った。博多は、ただ単に報奨として与えられた訳ではないのだと。