綺麗な部屋だった。物はきちんと所定の位置に仕舞われ、掃除も行き届いていた。和室のまま使っているので、光忠の部屋の様に寝具が出しっぱなしにはなっていない。
光忠は心臓の鼓動が、隣の大部屋で寝ている粟田口の子供達を起こさないかと不安になりながらも、障子越しの月明かりを頼りに衣装箪笥に手を伸ばした。こんなところ、見られたら格好が付かないどころの騒ぎではない。一期にもどんな目で見られるか……。
箪笥の中には、ジャージや下着の類が、これまた整理整頓されて収められていた。そっと鼻を近づけるが、桐箪笥の匂いの方が強い。かといって、取り出すと元に戻すのが手間だ。
光忠は箪笥の引き出しを押し込み、今度は押入れへ。音を立てぬようそろりそろりと隙間を広げれば、昨夜も使ったであろう、彼の寝具が収められていた。
深呼吸をして心を落ち着かせようとした。が、ここまで来てしまったら無理だ。はあ、と息をついて顔を埋める。良い匂いだった。高貴で、優雅で、それでいて何処か血が滾る様な。
これ以上は駄目だ、せめて自室に戻ってからにしなければと思いつつも、光忠の手は理性の言う事などもう聞いていなかった。尤も、聞いているなら部屋に忍び込む手前で自制できただろう。パジャマの上から自分自身を撫でる。ゆったりした服だが、そそり立っている事くらい自覚していた。
布団から顔を離さずに、息を吸い込む。今度は母親の様な匂いがした。太刀である自分に母など居ないし、最も疎遠な人種であるが、その様な気がした。優しくて何処か甘い匂い。
暫くそうしていたが、流石に此処で吐精する訳にはいかなかった。名残惜しいが、他の者に見つかる前に帰ろう。
そう思って顔を上げた時、背後の障子が開いた。