『いつでも俺の部屋に来ると良い』
あの事故から二日。光忠は、今日も自室のベッドに独り身を横たえた。
畳を剥がして洋風に設えた部屋は、光忠が気に入っているルームアロマがほのかに香る。戦や家事の疲れを癒やし、安らかな眠りに導いてくれる香り。
だが、光忠は長く愛用したこの香りでは、もう満足出来なくなっていた。
此処の審神者も香水を嗜む。上品でいてセクシーな、仕事が良くできそうな男が着けていそうな匂いを纏っている。以前はそれに惹かれたが、最早それも物足りない。
戦いを終えた後の男の身体から立ち上る香気。鶯丸のそれに勝るものは無かった。少なくとも今の光忠にとっては。
光忠は、とうとう我慢しきれなくなった。布団をはね除けると、隣室の倶利伽羅を起こさない様に、そっと部屋を抜け出す。
今日は、鶯丸は遠征だ。しかし、本丸の各部屋に鍵は無い。貴重品は金庫があるが、それ以外の物は、言ってみれば無防備に置き去りにされているのだ。
少しだけ。少し匂いを嗅ぐだけだ、と言い聞かせ、胸を押し潰しそうな後ろめたさから目を背けながら、その部屋へと忍び込んだ。