宇宙混沌
Eyecatch

第5章:一期一振は心配事が多い


 小夜と長谷部、そして厚は夕餉の支度が済んでから、それぞれの盆を手に手入れ部屋の隣の部屋に向かった。長谷部だけは二人分の食事を運んでいる。同じ日に料理番ではない博多も合流した。
「起きられる様になった?」
 小夜が襖を開けると、ボサボサと伸ばした黒髪を垂らした、体格の良い男が布団の上に座っていた。
「おう」
 重傷でこの本丸に運ばれて来た日本号は、二日前にやっと意識を取り戻した。傀儡を交換しても良いくらいの傷だったが、なんとか修復出来たので療養中である。
「何だ何だ? 今日は此処で食うってのかよ」
 ぞろぞろと入ってきた面子に、日本号は笑う。
「全員本丸に揃っているのは、木曜日だけだからな」
 長谷部が盆を日本号の隣に置く。博多達は部屋の開いているスペースに腰を下ろした。
「俺だけ内番違う班ばい~。俺も皆と同じ日が良か~」
 ゴネる兄弟の頭を、厚がわしゃわしゃにする。
「出陣と遠征は日本号と同じだろー」
「そう言うあっちゃんはいち兄と一緒ばい~」
「ハハッ、お前等は相変わらずだな」
 全員が場所を決めた所で、小夜が手を合わせた。皆が真似をし、一斉に「いただきます」。
「今の主は歓迎会等をしてくれる様な質ではないから、俺達だけでもな」
「フン、てっきり主命でお前も来たのかと思ったぜ」
「喧嘩はやめようよ。僕が食事を運んでって頼んだんだ」
 言った小夜を日本号は見る。
「ま、小夜に言われちゃしゃあねえなあ。どれ、酒でも……」
「飲めるわけないだろこの怪我人が」
 またもや長谷部と日本号が睨み合う。厚と博多の兄弟は、その様子を面白そうにケラケラ笑っていた。
「ところで、『今の主』ってのは、単に昔の主と比較して言ってるだけか?」
「前の主が二月程前に辞職したからね……」
「引き継ぎ審神者ってやつか」
「……やっぱり皆気にするの?」
 小夜が不安そうに日本号と博多の顔を交互に見る。
「別に関係無かとよ? 綺麗な名札もタダで作ってくれたし」
「名札?」
「日本号のもあるよ」
 小夜は備え付けの小箪笥の上に置かれていたそれを取り、日本号に渡す。
 日本号は受け取ったそれを、博多の胸に光るそれを、そして、小夜の腰に留められたそれを順番に見た。最後に長谷部の顔を見れば、彼は黙って頷く。
「……へえ、随分マメな主だな」
 言って布団の横に置く。タンクトップ一枚なので、着ける場所が無いのだ。どうせまだ立ち歩く元気も無いし。
(しかし……問題は小夜か……)
 小夜の腰の名札、それだけが特殊な信号を発している事に、本人は気付いているのかいないのか。日本号は箸を握り直すと、何も言わずに食事を続けた。

「今日は早かったんだね」
 にっかり青江が食事を部屋まで持って行くと、珍しく審神者は自ら結界を解いた。
「入れてくれるのかい?」
 審神者は頷く。青江は廊下に誰も居ない事を確認してから、するりと中に滑り込んだ。
 審神者は札を元の位置に戻す。審神者が独自に作ったものなのか、見た事もない文様が描かれていた。
 机に盆を置いた青江は、諦めを含んだ吐息を一つ。
「まずは僕からかい? 君もなかなか見る目があるね」
 言いながら彼はジャージの前を肌蹴る。審神者は興味無さげに尋ねた。
「そう言うあんたも物分かり早くないか?」
「まあ、石切丸の相手を出来てるのは、今の所僕と今剣だけだからね。君がその力を持て余したら、まず僕達を頼るだろうとは想像していたよ」
「そうか。今剣が俺に纏わり付くのも、多分同じ理由だな」
 言っている間に青江は上半身の服を全て脱ぎ捨てている。
「特に今日の君は滾ってるしねえ……しん」
 青江が言おうとした言葉を、審神者は彼の唇に指を当てて遮る。
「それ以上言うな」
 青江は前髪に隠れた赤い目で審神者を見つめた。
「認めたくないのかい? それにしては、今日は普通の人間を選ばなかっただけ、よく理解はしているみたいじゃないか」
「黙れ。お前の負担が増えるだけだぞ」
 青江は審神者の顔を見た。スーツに成形された肩を見た。ボタンの下から覗く腰を、ピッタリと丈の合ったパンツから飛び出す足を。
 それらから発せられている、限りの無い力を見た。
「……石切丸に比べたら、大した事無いね」
「そうか」
 それでも、青江は不安に審神者の袖を摘む。審神者は青江の背を安心させる様に撫でながら、その唇に自らの口を寄せた。

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