第11話:一期一振は唯一の存在にして [2/5]
髪を肩口まで伸ばした、三つくらいの子供が、自宅の庭で遊んでいた。
隣の家まで数百メートルというような田舎の集落。
『……ぐすっ…………うっ……ぐすっ……』
当然、自分以外の子供の声など、聴こえてはならないものだった。
「……? だあれ?」
尋ねたのは女の子の様に見えたが、可愛らしい格好をさせられた男の子だった。ボールを倉庫の扉に投げつける一人遊びをやめると、少女の声がする方向へ向かう。
境界の無い庭を出て数十メートル、ある樹の下で、彼はその少女を見つけた。
「……どうしてないてるの?」
少女は黙って足下を指差す。男の子はそれで何かを悟り、庭までシャベルを取りに戻った。数分後戻って来ると、何かに取り憑かれたかの様に、樹の根本、幹から少し離れた場所を一心不乱に掘りおこし始める。
「かずちゃん?」
家の仕事の合間に様子を見に来た母親が、庭に子供が居ない事に気付いた。外で何やら土を弄っているのを見つけ、駆け寄る。
「お庭の外に出ないでねって言ってるでしょ……」
息子の顔を覗き込もうとした視線が止まる。掘り起こされた土の隙間から見える白骨。朽ちかけた女の子の洋服。
「き、キャアアアアアア!!」
母親の悲鳴を背景に、男の子は少女の影が消えるのを見た。
「え、あの子……?」
「旦那が女の子殺したってやつ?」
「そうそう。実の息子も悪戯されてたって」
少し大きくなった男の子が公園に姿を現すと、自分達の子供を勝手に遊ばせて世間話に花を咲かせていた主婦達は急に押し黙った。
「こんにちはかず君。ママはお仕事?」
「うん」
何か隠し事をされた事には薄々勘付きつつも、話しかけられたので笑顔で返す。
「皆かくれんぼしてるみたいよ。かず君も隠れたら?」
「わかった」
この時、子供達がかくれんぼしていたのは事実だった。しかし、関わり合いを持ちたくない親達が、鬼の子供に彼の参戦を伝える事は無かった。
そしてその日、彼が戻ってくる事も。
『可哀想に』
「?」
男の子が公園の隅にあった祠の後ろにしゃがんでじっとしていると、祠の中に居る者が話しかけてきた。人ではない。それは解っていたが、まだ幼い彼に危険を判断する力は無かった。
『居場所が無い』
「…………」
『私と同じ』
父親が逮捕されて両親は離婚した。その原因を見付けたのは自分だし、自分自身も父親の悪の手に玩ばれた一人だ。母親は世間の目やマスコミを逃れて都会を転々とする様になった。お荷物にしかならない、忘れたい相手の形見である自分を養う為に。
『おいで』
男の子は呼ばれて立ち上がる。言葉で言われた訳ではない。ただ、今回も、何をする事を求められているか、解ったのだ。
祠の正面に回り、劣化した閂を外して扉を開ける。
『何処かへ』
連れて行け。その言葉が聴こえる前に、男の子は御神体を掴んでいた。
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