宇宙混沌
Eyecatch

第11章:一期一振は唯一の存在にして [1/5]

「ご苦労な事だな」
 皆が食堂を引き揚げた後。料理当番の一期が審神者の離れから盆を持って帰ってくると、まだ残って晩酌していた鶯丸に捕まった。
「当番ですので」
 いつもの調子で答えたつもりだが、旧知は意味深な笑みを浮かべる。
「審神者の様子はどうだ?」
 審神者、という単語に一期は肩を震わせる。しかし隠し通すつもりか、次の鶯丸の言葉も無表情のまま甘んじて聴いた。
「君の手から飯を受け取って食べたのか?」
 態度はいつも通りにしようと思っても、流石に一期は体中から冷や汗が吹き出るのを感じた。
「……一先ず……洗い物を済ませてもよろしいでしょうか」
「ああ」
 一期は震えそうになる手を抑えて厨房へ。弟達には先に引き揚げて風呂に入るよう言いつけておいたので、誰も居ない。
 ……弟。
『……次は首が飛ぶかんね』
「……っ、はぁ……」
 詰まりかかった息を吐き出せば、今度は余分に酸素を取り込みそうになってしまう。深呼吸して落ち着かせ、蛇口を捻った。
 自分の行動は監視されているのだった。鶯丸と日本号も政府の差金だという事を忘れていた。
 しかしそれよりも。
(胸が痛い……)
 審神者には家庭があった。此処に来たのも、自分達の身体を気遣ってくれるのも、全ては生まれてくる彼の子供の為。同性結婚が法的に認められて久しいが、この国が相変わらずパートナーは一対一の番であること、と取り決めている事は一期も知っている。
 自分は江雪の様にはいかないのだ。駄々を捏ねれば愛する者と一緒になれた、彼の様には。
(人間になりたい……)
 一期は純粋に、昼に再会した切れ長の眼を思い出して嫉妬した。愛する者に愛される、ただそれだけの存在意義で生きていける存在になりたい。いや、愛されなくても良い。せめて愛する事だけでも許してほしい。
「大丈夫か?」
 鶯丸の声にハッとする。水を流したまま手が止まっていたので、様子を見に来たのだ。
「その気持ち、素直にぶつけてみないか?」
「…………へ?」
 一期は聞き間違いかと思って、水を止めて振り返った。鶯丸は、一字一句違わず、その言葉を繰り返す。
「な、何を仰るんです。主は……」
「審神者の神力は後天的なものだ。今なら解放してやる事が出来るかもしれない。この機を逃せば、次は一年後だ」
 鶯丸が続けた言葉が予想外のもので、一期はぽかんと口を開けたまま固まる。
「それとこれとが頭の中で繋がりませんが……」
「だろうな。興味があるなら、用を済ませて俺の部屋に来い」
 言って流しに空になった酒器を置く。一期は手早く全ての食器を洗い終えると、緑色の髪を追った。

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