「…本丸って、こんなに静かだったんだね」
五人を刀解した主は、霊力が戻った為に少しは立ち上がって歩ける程度になった。安定は彼女を支え、廊下に出る。色鮮やかな庭にも、建物の中にも、もう誰も居ない。
「私が此処に来たばっかりの頃はねー、清光と小夜ちゃんだけでしょ? 小夜ちゃんあんまり喋らないし、清光は外に出てる事が多かったから、そりゃもう静かで…」
楽しそうに語るその声が徐々に消え入る。肉体の方がもう限界か。
「…もう行こうか」
安定の肩の辺りで頭が上下に動いた。
「主の名前は?」
清光が教えてくれた手段、それは神隠しだった。神の力を以て主そのものを自らの世界に取り込んでしまえば、主の霊力による拘束からも解き放たれ、勿論政府の審神者によって尻尾を掴まれる様な事も無い。
だがそれには、主の真名が必要だった。
「私の名前は…」
初夏の日差しが降り注ぐ本丸。ただ、庭に生えた木の葉が微風に擦れて音を立てているだけ。
蔀戸を跳ね上げたままの部屋にも、誰かが居る気配は無かった。ただ、その部屋から続く廊下の片隅に、一輪の手折られた花が落ちていた。