宇宙混沌
Eyecatch

第1章:お着替えしようか


お着替えしようか

「……という事で、江雪に洒落た格好をさせるという名目で目の前で着替えさせ、胸板を拝見するという策を思い付いた」
 仕事が終わったと思ったら審神者は部屋に燭台切光忠と大倶利伽羅を呼んだ。というか、清光と安定に呼びに行かせた。
「……主がやりたい事は解ったけど、なんで僕達が呼び出されたの……」
「お前の遊びに付き合うつもりはない」
「そりゃあ、君達お洒落だから一番それっぽいコーデができるでしょ? ……大倶利伽羅には、ずんだ餅セット買ったげようかと思ってたんだけどなー」
 ずんだ餅調理セットで買収される程度に此処の大倶利伽羅はちょろい。
「って事で君達の服を適当に見繕ってくれ! 良いのが無ければ万屋に行っておいで、お金は出そう」

 三十分後。
「江雪君には黒が良く映えると思ってベーシックだけど黒ジャケットメインにしてみたよ」
「流石は光忠。グッジョブ」
 審神者は親指を立てる。大倶利伽羅に江雪を呼びに行かせた。
「戦いに関係の無い事であれば、お手伝いしますよ」
「言ったな江雪左文字!」
 縁側で大倶利伽羅にそう言っている声が聞こえると、待ちきれなかった審神者は障子をスパーンと勢い良く開く。江雪も仕事を終え、いつもの重たそうな鎧袈裟姿に着替えていた。
 江雪の表情が心無しか厳しくなった気がするが、審神者は気付かない振りを通す。
「……これは?」
「江雪はいっつも同じ服だからたまにはお洒落してみなよ」
 審神者は満面の笑みでジャケットの下に着るシャツを見せる。流石に洋服に着替えるなら襦袢は脱がざるを得ない。
「要は……貴方が私の洋装を見たいのですね?」
 審神者の変態っぷりは江雪だって知っている。宗三左文字や乱藤四郎や鯰尾藤四郎あたりはこういった着せ替え人形紛いの事も喜んでやる性質なので、何度か犠牲(女装)になっているのを見た事がある。今回は女装でないだけマシか。
「……解りました。では、貴方は部屋の外でお待ちください」
「いやいや気にするな。此処で待たせてもらおう」
「それは……いけません。私は付喪神とはいえ、今は男の姿をして……」
「そんな乙女を扱うように気を遣わんでも大丈夫だぞ?」
 江雪と審神者がやりあっている間に大倶利伽羅がこっそりフェードアウト。それに気付いた江雪が光忠にアイコンタクトを取る。
(光忠は残っていてください……!)
 審神者が自分の脱ぐ所が見たいという事も解った。それだけじゃない、下手したら貞操が危ないかもしれない。この審神者ならやりかねない。
 しかし受け取りそこねた光忠は親指を立てる。
「ああ、君の格好良い姿はちゃんと主のスマホに収めてあげるからね!」
(そうじゃない!)
 江雪は最後の手段に出た。一つ息を吸い、袈裟の下の自らの刀身に手を伸ばす。
「和睦の道は、無いのでしょうか……」
 殺気を感じた審神者はゴリ押しするのをやめた。真剣必殺の時の表情を思い出す。普段大人しい者ほど怒ると怖いというのは一期で良く解っているし、江雪も例外ではない。
「だああっ、それ出すのは反則! わかったわかった外で待つよ!」

 審神者は諦めが悪く、障子の隙間から中の様子を窺っていた。
「……覗き見をやめていただけますか」
「ごめんなさい……」
 審神者の気配が少し離れた場所に行ってから、江雪は袈裟を畳の上に落とす。
「江雪さんももっと素直になれば良いのに」
 クスクスと光忠が小声で言う。
「さて、何の事でしょうかね……」
 惚ける彼の耳は、白い肌に似付かわしくない程血色が良くなっていた。

「主、何見てんの?」
 次の日、近侍の清光が審神者が弄っていたスマホを覗き込む。
「ジャケット江雪様」
「ああ、昨日の。結局見れたの?」
「いやー失敗したよ。その代わり、思う存分写真は撮らせてくれたけどね」
「ふーん」
 清光は差し出されたスマホを取る。指で擦ると写真が入れ替わった。
(まんざらでもなさそうな顔しちゃってさ……)
 今度俺の撮影会もやってよ、と言いながら返すと、審神者は即答で却下し、またもやメンタル重傷の清光なのであった。

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