第1話:お着替えしようか [1/2]
序章
とある本丸。此処には二十代前半と見られる女審神者が政府から派遣されていた。
出陣における勝率は百パーセント。ブラック本丸ではないので資源やレアな刀剣は少ないが、戦績が良いので政府からも一目置かれ、審神者も刀剣達も潤沢な報酬や無理の無い出撃スケジュールに不満は無い。刀剣同士の仲も良く、とても平和な本丸だ。
……審神者がちょっと変わっている事を除けば。
「はあああ~」
その日、審神者は畑仕事をしている二人の刀剣の内、青い作務衣に白い長い髪を垂らした方を縁側からじっと見つめていた。
「江雪様……」
「なーに仕事サボってんの?」
「最近江雪の事ばっかり見てるよね」
背後から声を掛けたのは加州清光と大和守安定だ。先程まで彼等と雑務をこなしていたのだが、厠に立った帰りに江雪左文字の姿を見付け、そのまま見惚れていたのである。
「ああ、ごめんごめん」
二人に連れられて執務室へ。
「主、江雪の事好きなの?」
政府から送られてきた歴史修正主義者の情報やあれやこれやの書類を整理しながら、清光が尋ねる。
「うーん、好きっていうか……」
「ていうか?」
安定は馬当番の順番を考えながら声だけ反応する。
「あの鉄壁の襦袢を脱がせたくて……」
「「鉄壁の襦袢?」」
何それ、と安定が吹き出す。審神者の顔が本気で、逆に面白かったのだ。
清光はちょっと不機嫌そうに眉を吊り上げる。
「江雪の裸が見たい訳?」
「端的に言うとそういう事だね」
はあああ~と審神者は目をキラキラさせた。
「やっぱり男の筋肉にはそそられるしね……」
流石にこの目の輝きには安定も引く。
そう、この審神者、男体フェチなのだ。基本的に鍛えられた男ばっかりのこの職場、審神者的にはウハウハである。
「筋肉見たいだけなら陸奥守とかで良くない?」
「うーん、審神者的にはもう少し細い方が好みだ」
「じゃー俺は?」
清光が嫉妬する。コートの前を広げ、審神者の方に腕を開いた。
「君の裸は見たら死ぬんでしょ」
興味無さそうに一蹴され、清光のメンタルが一瞬にして破壊される。
「うっ……やすさだぁ……っ」
「泣くなよ加州……」
五分後、気を取り直して仕事を再開。他愛無いお喋りも再開。
「ところで、なんで『鉄壁の襦袢』なの?」
「君達、江雪様の真剣必殺見た事ある?」
「無いよ」
「あの人ちょー強いじゃん。軽傷だって滅多に負わないのに」
「それがさー、この前一期がビデオカメラ持って出撃したじゃん?」
極度のブラコンである一期一振は、先日自分の給与でビデオカメラを買ったらしい。
そろそろ夜戦も行っていかなければいけないし、粟田口の短刀を鍛えるために、一期一振と、もう一人脇差以上の刀を保護者として出陣する機会が増えた。可愛い弟達の勇姿を映す為、かなり非常識にも一期は新しいカメラを片手に出陣したのだというのだ。
「まあ、その時のもう一人の保護者が江雪だったからってのもあったと思うんだけど」
江雪は戦い嫌いだがその戦闘能力は本丸一だ。
「一期も流石に油断しすぎたみたいでね。ちょっと不利な状況になっちゃって、江雪様が真剣必殺して勝利を収めたってわけ」
「それで?」
「その時の様子がカメラにバッチリ映ってる訳よ」
言って審神者は一期にコピーしてもらった動画が入っているタブレットを取り出す。何回か画面をタップ操作して再生させ、二人に見えるように掲げる。
『むざむざ殺されるつもりもありません……!』
そこには、何故か上半身だけ襦袢一枚になった江雪左文字の姿が。やや斜め後ろからのアングルだが、胸元がほんの少しだけ肌蹴ているのか、普段は隠れているネックレスが揺れながら映っている。
「……つまり、脱ぐなら脱ぐ、脱がないなら脱がない、を徹底しろって事?」
一番審神者との付き合いが長い清光は、そろそろ彼女の事を解ってきたつもりである。
「いや、これはこれで良い。脱がないエロさ、素晴らしい」
即答で否定されまたもや清光のメンタルは戦線崩壊寸前。
「加州……生きろ……」
安定はこんな主のどこが好きなんだか、と呆れた顔で清光を励ます。
「が、しかし! 鉄壁が崩れた下を見たくなるのもまた事実! 見るぞ私は~江雪様の胸板を絶対見るぞ~」
しくしくと泣く清光とその背中を撫でて慰める安定をよそに、審神者は江雪の襦袢をどうやったら脱がせられるか思案を巡らせるのだった。
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