宇宙混沌
Eyecatch

第4章:あなたはわたしの、わたしはあなたの [1/5]

「「「…………」」」
 とわと犬夜叉とかごめは、理玖の話が終わっても無言だった。
「な、何か言えよ」
「そうだぞ」
「ちょっと待って、言いたいことや訊きたいことが多すぎてさあ……」
 とわは頭を抱える。
「もろはの姿で仕事してたってことは、もしかして私達がもろはのつもりで挨拶した時に竹千代だったことある?」
「あるんだぞ」
「あるんかい!」
「一度だけ、雲母の上から声をかけられた時に」
「ああ、なら良かった、セーフ」
「何か竹千代に話すとまずいことでもあるんですかい?」
「ガールズトークもそこそこしてるからね……」
 とわは安堵の表情から、真剣な顔に切り替える。
「でも、そっか。自分の顔を捨てるって、大変な決断だったね」
「背に腹は代えられないんだぞ」
「でも、狸の姿の方が見つかりやすそうなのにな」
 もろはが首を傾げる。
「菊之助とそっくりじゃん」
「子狸は大体みんなこんな顔なんだぞ。俺の顔を直接見た事があるのは、城に出入りできた家臣達くらいだし、曖昧な人相で捜せば狸違いの可能性が高いんだぞ。人間の姿であれば区別しやすいし、父上がその姿で民にも顔を見せていたからな」
「「なるほど」」
 もろはとわが揃って納得する。
「でもさ、もう御家騒動は解決したんでしょ? だったら人間の姿になっても大丈夫じゃん! ねえ!?」
「アタシに言うなよ」
「見たい!」
 とわは竹千代に期待の目を向ける。
「ええ~」
 竹千代はまだ渋る。
「ここまで話の中で散々男前って前置きされて、実はそうでもなかったら居た堪れないんだぞ~」
「実際おいらより男前だぜ?」
「ほらそういうとこだぞ!」
 竹千代は後退る。先程まで理玖ととわが居た隅まで追いやられて、観念した。が、素直にその姿へは変化しない。
「……も~。もろはへの変化じゃなくて――」
 とわの言葉の途中で、竹千代はもろはを連れて一旦外へ。
「お前には後で見せてやるから、此処は――」
 話を摺り合わせてから戻る。
「これでどっちが本物か判らないだろ」
「当てられた奴にだけ見せてやるってさ」
「うわ、声までそっくり。でもそんなの簡単だよ」
 とわが二人に鼻を近付ける。
「……あれ?」
 匂いまですっかり再現するようになったらしい。犬夜叉も嗅いだが、首を傾げて悔しがる。
「理玖には判るの?」
「いやあ、おいらにもさっぱり」
「でも獣兵衛さんは完璧に見分けてたんだよなあ」
「間違われたことないよな?」
 判別できない三人は、期待の目でかごめを見る。
「あたしは判るけど、竹千代君が見られたくないなら別に良いわよ。こっちがもろは
「すごい! なんで判ったの?」
「この私が作った着物、竹千代君の方は縫い目が綺麗すぎるのよ」
「あ~。そういう粗を出す方が実は難しいんだぞ」
 竹千代は子狸の姿に戻って座る。
「それで、他に訊きたいことは?」
「なんで付き合ってないの?」
 とわが鬼気迫る目付きで問う。
「なんでって言われても……」
「別に付き合うつもりが無かったからだぞ」
「ハァ!? こんなにクソデカ感情お互いにぶつけといて!?」
「ちょっと何言ってるんだぞ」
「と、とわ様? 落ち着いて」
 付き合うつもりが無かった。過去形の言葉に、黙って聞いていた犬夜叉が溜息を吐く。
「まあ狸平の奴なら俺も文句ねえよ」
「ちょっと犬夜叉、言い方!」
 かごめは夫を窘めてから、娘に向き直る。
「恋愛や結婚は、もろはの自由にすれば良いと思うわ。あたしは好きな人と一緒になったけど、そうできない人も、そうしない人も多いし」
「なんでアタシの結婚の話になってんの?」
「人生の話よ。もろはは、賞金稼ぎの仕事についてどう思ってるの?」
「どうって……?」
 質問が抽象的で、答えに困る。
「あたし、賞金稼ぎって犯罪人を捕まえる仕事だと思ってた」
「まあ、現代だとそうですよね……」
 とわが同意する。
「でも今の話だと、単なる殺し屋稼業ってこと?」
「おいらが頼んでた仕事なんて、正しくそうですね」
 理玖は腕を組む。竹千代が補足した。
「大抵は悪事で名の知れた妖怪相手だったけど、何も命を取る程の罪でもない者も居たし、俺みたいに濡れ衣の奴も居たと思うんだぞ」
「それでも賞金稼ぎをしていたのね」
「食い扶持を稼ぐにはやるしかなかったんだぞ。俺は独りで密かに熟せる仕事の方がありがたかったしな」
「…………」
 かごめは複雑な面持ちで黙り込む。
「あのさ、お袋」
 もろはも真剣に答えた。
「お袋が言いたい事もよく解る。悪くない奴を殺すなとか、好き嫌いで仕事を選ぶなとか。けどさ、別に退治屋だって大差無いぜ? そりゃあ人間は困ってるのかもしれないけど、妖怪だって必死で生きてんだ」
(それを妖怪じゃないアタシが言うのか)
 悩みつつも、言葉を絞り出す。
「ただ数が増えすぎたからって理由で退治屋に皆殺しにされる妖怪だって居る。それに人間だって、日々魚や草木の命を取って生きてるだろ! それと何も違わないよ。アタシ達は、自分の手の届く場所の中で、奪い合って生きてるんだ」
「もろは……」
「だから、アタシはアタシの仲間を守るだけだ」
「……そうね。それだけの覚悟があるなら、余計な口出しだったわね」

「それで、竹千代は戦争を起こすことは止めたわけだけど、結局は狸穴島に乗り込んで将監をやっつけたんだよね?」
「まあな」
「その時の話も詳しく聞きたいな」
「もろは、頼む」
「ええ~めんどくさ」
「ではまたおいらが」
 理玖の提案に、もろはが竹千代を小突く。
「お前何でも理玖に話すのな」
「え、いや? 俺、『家督は弟に譲った』としか言ってないんだぞ」
「じゃあ何を話すんだよ?」
「竹千代が平和的解決方法を思いつくまでの話でさあ」
「いや、思いつかなかったから、結局もろはに頼んだんだが……」
 竹千代の指摘も何のその。理玖は一方的に話を進めた。

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