宇宙混沌
Eyecatch

影の世界 [8/9]

光の世界

「無い!!」
 竹千代はすぐ傍で聞こえた叫びに飛び起きた。
「な、何が無いんだぞ?」
「紅が無い! 形見なのに!」
「何処かで落としたのか? 探すんだぞ」
 家臣達も巻き込んでの捜索が始まる。
「城の中には無さそうです」
「そうか。とすると、昨日もろはが落ちた場所かもな。仕事があるだろ、お前達はもう良いぞ」
 家臣達を解放し、竹千代はもろはを連れて森へ。記憶を頼りに地面に目を凝らしていると、竹千代がその白い貝を見つけた。
「あったんだぞ!」
「良かった~」
「黒真珠もちゃんと入ってるな」
「黒真珠?」
 貝を開いて中を確認した竹千代に、もろはは首を傾げる。
「ほれ、無事だぞ」
 竹千代はもろはに見えるように持ち直す。もろはは顎に手を添える。
「何、これ」
「何って、お前のお爺様の墓に繋がってる黒真珠だぞ」
「んなもん知らねえよ。アタシが持ってた紅には何にも入って……」
 そこで二人は気付く。
「ということは……」
「これ、俺が知ってるもろはの紅なんだぞ」
「こっちのアタシ、突然無言で落ちたって言ってたよな?」
「ああ。でもその前に、ちょっと身じろぎはしてたかも」
「紅を落としそうになって、慌てて一緒に滑り落ちたって感じかもな」
「なるほど」
「試してみるか」
「ええ!? つまり俺の上から飛び降りるんだぞ?」
「再現してみる価値はあるぜ。勿論この紅も一緒に」
「壊したら俺がもろはに殺されるんだぞ~」
 しかし今は手掛かりがそれしかない。竹千代は変化してもろはを背に乗せると、昨日と同じ場所を同じ速度で飛んだ。
「此処だぞ!」
 竹千代の合図と共に、もろはが紅を投げ落とす。それを追いかけるようにもろはも飛び降りた。
「もろは~~~」
 今度は遅れずに竹千代も追いかける。落下地点に行くと、そこには赤い衣の少女が背を向けて立っていた。
「どっちのもろはなんだぞ!?」
「竹千代!?」
 振り返ったもろはは、唇に紅を差していた。
「やった! 戻って来れた!」
「うわ~ん! 俺のもろはなんだぞ~~~」
 竹千代はもろはに飛びつく。もろはも竹千代を抱き締めたまま一頻り号泣して、落ち着いた頃に竹千代が思い出した。
「あっ! そうだ、紅!」
「ああっ!! やべ、あっちの竹千代に取られたままだ、置いてきちゃった」
「いや、それ向こうのもろはのだから大丈夫だぞ。……あった」
 近くの茂みの上に乗っかっているのを、竹千代が指差す。もろはが拾って開くと、黒真珠が入っていた。
「ったく、一体何だったんだ。散々な目に遭ったぜ」
 もろはは竹千代を下ろし、紅を仕舞う。
「散々な目って?」
 問われて、もろはは受けた恥辱や求婚を思い出す。顔が熱い。
「何でもない。……竹千代さあ、殺生丸みたいに人間に化けられるのか?」
「突然なんだぞ? 速くて見えないだろうけど、お前に化ける時に、いつもその姿経由してるぞ。ほれ」
 言うと変化する。もろはが瞬きすると、そこには口元にほくろのある男。
「!?!?」
「直接お前の姿になるより、ここから変形していく方が楽だからなー。って、顔真っ赤だぞ、熱でもあるのか?」
「無い! てか、普通に化けられるの、なんで今まで隠してたんだよ!?」
「別に隠してはないぞ、言う必要が無かったから言ってなかっただけで。……本当に大丈夫なのか? 具合悪そうなんだぞ」
「大丈夫だから近寄るな!」
「えぇ……。でも、菊之助が心配してるんだぞ。城に戻るから乗れ」
 竹千代は、今度は飛行形体に変化する。この姿なら安心だ。
「紅落とすなよ」
「わかってるよ」
 もろはは紅を懐の奥にしっかり仕舞うと、いつもの場所に飛び乗った。

闇背負ってるイケメンに目が無い。