宇宙混沌
Eyecatch

影の世界 [6/9]

光の世界

「そんなことになっているのですか!?」
 竹千代は一先ずもろはを城へ連れて行く。事情を説明すると、菊之助は目を真ん丸にした。
「うむ。とにかく、元に戻るまで此処に世話になって良いか?」
「もちろんです、兄上」
「つかさあ、お前等なんで狸の姿のままなの?」
「「へ?」」
 唐突なもろはの問いに、兄弟は首を傾げる。
「アタシ、妖狸の世界では人間に上手く化けられる方が妖怪としての格が高くて、その格の高さを知らしめる為に、狸平の一族はみんな人間そっくりの姿で過ごしてるって聞いたんだけど……」
「なんだそれ」
「儂も初めて聞きました」
「あれ~?」
「まあ、元の世界の常識がこっちでも通用するとは限らないんだぞ」
「ですね。まず兄上が当主のままの時点で色々ずれていますし」
「はあ~。ったく調子狂うぜ。こっちの世界は随分平和なんだな」
「そうでもない時期も多いけどな」
 食事が運ばれてきたので、三人は食べながら話を続ける。
「こっちの世界のアタシが居なくなった時、どういう状況だったんだ?」
「理由はわからないけど、俺の上から落ちたんだぞ」
(上から落ちる……?)
「……お前は、こっちの世界のアタシとどういう関係なんだよ」
 竹千代が空を飛べることを知らないので、もろはは困惑する。
「相棒なんだぞ」
「ハァ? てめーふざけてんのか殺すぞ」
「ひょえっ」
「あわわ、おやめください」
 菊之助が仲裁に入り、もろはは刀を仕舞う。
「でもよぉ、一介の賞金稼ぎと殿様だぜ? 何処に知り合うきっかけがあるんだよ」
「この世界では俺も賞金稼ぎなんだぞ。お前より経歴長いぞ」
「ますますわけわかんねえな」
「とにかく、今夜はゆっくりお休みください。兄上は伊予から一飛びで来られたのですか?」
「流石にそれは無理だぞ。堺で一泊してきた」
「そうでしたか。落ち着いたら土産話を是非」
 食事の後、竹千代は昔自分が使っていた部屋へ。もろはは客間へと通される。
(……違う世界、か)
 部屋の真ん中にぽつんと座っていると、急に寂しくなってきた。
(別に、あっちの世界に居たって、アタシは独りだけどさ……)
 それに比べて、此方の世界の狸達の親切なこと。なんでも、以前もろはのお蔭で悪政がどうたらと言っていた。
(アタシは、竹千代を殺せば借金帳消しにしてやるって言われて来たのにさ)
「もろは」
 当の竹千代の声がかかった。
「なんだよ」
「お前は寂しがり屋だからな。俺も突然見知らぬ土地に逃げ隠れることになった時は辛かったし、今晩は一緒に居てやるんだぞ」
 竹千代は自分の夜着を抱えて部屋に入ってくる。
「妙な真似すんなよ」
「それはこっちの台詞だぞ」
 もろはの布団の隣に陣取ると、竹千代は溜め息を吐く。
「俺がもろはを落とさなければ、こんな事にはならなかったんだぞ」
「あー、ちょっと確認なんだけど。さっきから、お前の上から落ちるとか、一飛びとか、どういう意味?」
「? そのままの意味だぞ。飛んでる俺の上から落ちた」
「お前空飛べるの!? って、その小さい体に乗るって……」
「飛ぶ時は大きく変化[へんげ]してる」
「なるほど」
 漸く理解したもろはは、本格的に考え始める。
「お前が落ちたアタシを探していて、見付けた時には入れ替わってたってことか」
「そうだぞ。無言で落ちたから気付くのが少し遅れて。もしかしたら、突然気を失ったのかもしれない」
 竹千代は涙ぐむ。
「俺は、俺が知ってるもろはにまた会いたいんだぞ。頼む、明日一緒に、元の世界に戻る方法を考えてほしいんだぞ」
「今も考えてるよ」
「本当か!?」
「ああ」
 安堵の表情を浮かべた竹千代に、もろははずきりと心が痛む。
(こいつ、こっちの世界のアタシのことが好きなんだな)
 竹千代だけじゃない。狸達が親切にしてくれるのも、全て此方の世界の自分への敬意からだ。
(此処に居たって、アタシは独りぼっちだ)

闇背負ってるイケメンに目が無い。