影の世界 [4/9]
光の世界
「ぴえ~!」
竹千代は逃げた。もろはの技を食らったら一溜まりもない。
(狸平の当主を狙ってるなら、菊之助に助けを求めるのもまずいんだぞ!)
どうしてもろはがそんな妄想をするに至ったのかわからないが、とにかく竹千代は全速力で城とは反対側に走る。
(あれ?)
暫くして、後ろから追いかけてくる音が遠いことに気付いた。
「ハァッ、ハァッ……」
立ち止まって待っていると、息を切らしたもろはが姿を現す。
「どうしたんだぞ?」
(もろは、こんなに足遅かったか? それに紅龍破とか使えば一発なんだぞ)
「……クソッ! なんで妖力が使えないんだよ!?」
「えぇ、本当に大丈夫なのか? 早く城に行って、中で休ませてもらうんだぞ」
竹千代はもろはに近付く。今度はもろはが退いた。
「もろは?」
「もしかしてお前、竹千代じゃないのか?」
「竹千代だぞ~。俺のこともわからないのか?」
「嘘つけ。お前みたいな人の良さそうな奴が、あの暴君竹千代なわけないだろ。狸違いだ。追い駆けて悪かったな」
踵を返したもろはの背中に、竹千代は胸がざわつく。慌てて脚にしがみついた。
「何処に行くんだぞ!?」
「城だよ城」
「そこに暴君竹千代は居ないんだぞ」
「ハァ? なんで」
「今の狸平の当主は、俺の弟の菊之助だ」
「あれ? アタシが来る前に追い出されたわけ?」
「違う。ところでもろは、お前どうやって此処に来たのかわかるか?」
竹千代は一つの可能性に思い当たっていた。にわかには信じがたいが……。
「どうって……小舟に乗ってさ。城に近付こうとしたら狸平の兵が見回ってたから、木々を飛び移って移動してたら足滑らせて……」
ここまでのもろはの言動はあまりにも一貫している。頭を打っておかしくなっただけとは考えにくい。
「なるほど。して、その兵とやらは何処に行ったんだぞ?」
「あれ?」
もろははやっと、森に自分達二人以外の気配が無いことに気付く。
「おっかしいな。さっきは沢山居たのに……」
「森の中にまで見張りを立てたことなんて、少なくとも俺が当主だった頃には無いし、将監が実権を握っていた頃にも無いはずだぞ。そんなに頭数が居ないからな」
「え?」
「第一、俺を狙う奴は城の外には居なかった。……中には居たけど」
小さく付け加える。もろはも竹千代の真剣な様子に、自分を疑い始めた。
「……やっぱり、アタシが頭おかしくなってるってこと?」
「いや、これは、物語の中だけで起こりうることだと思ってたんだけど……」
別の世界のもろはと、入れ替わってしまったのでは?
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