影の世界 [3/9]
「吐いたか?」
半刻後、もろはが拷問されている地下室に、当主の竹千代は赴く。そこでは袴を脱がされ、後ろ手に縛られた少女が、水平にした木の柱に跨って痛みに耐えていた。
「いえ。これから鞭打とうかと」
「貸せ、俺がやる。お前達は外せ」
「ハッ」
部屋に二人きりになると、竹千代はもろはの姿を嘗めるように眺め回す。もろはは羞恥で身を捩るが、それで余計に食い込んで、声を漏らしてしまった。
「この木馬に乗せられるのはお前が初めてだぞ。よく出来ておるな。女子供を虐めるのに丁度良い」
(こいつ、本当に竹千代か……?)
もろはは痛みで鈍る頭で必死に考えていた。此処に来るまでに通ってきた地形や城の中の構造は、もろはが覚えているものと矛盾しない。夢なら醒めてくれ――そう思ったが、その可能性はこの器具に載せられた痛みで消えた。
(夢じゃないとしたら、幻術にかかっているか、或いは違う世界に迷い込んだ?)
伊予に居る間に、とわから色々な物語を聞いた。その中に、今の状況と似たような設定のものがあったのを思い出す。
黙って考え事をしているもろはに、竹千代は痺れを切らした。
「吐くまで下ろしてやらんぞ? 誰に雇われた?」
「だから、アタシは別に――!」
竹千代が振るった鞭が、伸ばせないよう縛られたもろはの腿に赤い痕を残す。
「痛いだろ? もっと痛い目に遭いたくなければ吐くんだな」
「だって吐けないものは吐けないもん!」
(しぶといな)
竹千代はもろはの正面に回る。両手でもろはの腰を掴み、体重をかけるように押し付けた。
「ああっ! やぁ……」
こんな状況なのに、痛みの中にほんの少し快感が混ざった。股から先程までよりも多く蜜が流れ出る。更にそれを至近距離で男に見られていることが耐えられなくて、もろはは涙を浮かべた。
(あれ、本当に知らないのか……?)
竹千代にはそんな疑念が浮かぶ。しかし、よく訓練された殺し屋は自決してでも秘密を守るものだ。まだ嬲る余地はある。
竹千代はもろはの懐に手を入れる。貝に入った紅が出てきた。
「あっ、それは――」
「大事な物か?」
「やめろ! 形見なんだよ!!」
腕を振り上げた竹千代に、もろはは叫ぶ。
「やめてほしければ吐け」
「だって吐くものが無いんだもん。アタシはお前を殺そうなんて思ってねえよ!」
殺そうなんて思ってない。どうしてかその言葉に、嘘は無いように思えた。一瞬の逡巡の後、紅を懐に戻してやる。
「確かに、人間風情が俺を殺すなど、無謀にも程があるな」
そのままもろはを抱き上げ、床に下ろした。もろははもじもじと股を隠そうとしながら、訂正する。
「いや、アタシ四半妖だけど、此処だと妖力が出ないみたいなんだ」
「妖力封じの仕掛けなどは無いぞ?」
「多分、アタシは違う世界からこの世界に迷い込んだんだよ。だから力が出せないんじゃないか?」
「違う世界?」
突拍子も無い発言に、竹千代は嗤う。
「そこでの俺を知っている風だったな。お前の知る俺は何をしているのだ?」
「賞金稼ぎだよ。アタシと組んでる」
「……やはり巫山戯ておるな」
竹千代はもろはを蹴飛ばし転がす。脚の間に割り込んで、紅く色づいた花弁を明かりに晒した。
「やっ、見るな!」
「俺は今度元服して、その後すぐに嫁を貰う」
「え?」
「ちょうど練習台が欲しかったんだぞ」
その言葉に、何をされるのか悟ってもろはは青ざめる。
「わ、わかった! 話すよ、アタシの親分のこと!」
「嘘の情報は要らぬぞ」
(くっ、見抜かれてる)
竹千代の指がもろはの蕾を摘む。途端にもろはの思考が鈍った。
「これでは策も練れまい」
「あっ、んん、べ、紅を……」
「何?」
「さっきの紅……塗ってくれない?」
(あれで血が滾ってくれれば……!)
竹千代はもろはの着物の中を探る。
「ただの紅だな」
(何か仕掛けがあるのかと思ったが)
竹千代は紅を指先に取り、もろはの唇をなぞった。何も起きない。
(くっそ……)
もろはは覚悟を決めて、唇を噛み締める。
「なに、そんなに口を歪めずとも、少し戯れるだけぞ」
竹千代が言うと、二人の周囲を柔らかい毛皮が覆い始めた。
「なっ、何?」
「とはいえ、人の子には妖との交わりは酷かもな」
「だから四半妖だって……」
毛皮に包まれて、言葉は尻すぼみになる。
次にもろはが気付いたときには、体を清められ、高そうな調度の並ぶ誰かの寝所に寝かされていた。
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